草木の芽吹く春。桜も駆け抜けるように咲いて散るこの季節、山にも花壇にもたくさんの花が咲き誇って目を楽しませてくれますが、花が咲き乱れているのは多肉ガーデンも同じ。この季節は多くの多肉植物がいろんな花を咲かせてくれます。
「え?多肉植物って花が咲くの?」という人にこそ見て欲しい。今回のコラムは、代表的な多肉植物の1つ「エケベリア」の花を全力で紹介いたします。
多肉植物だって植物なんですから花が咲きます。どんな花が咲くかはもちろん種類によって変わってきます(サボテンなんかはトゲトゲボディからは想像できないハイビスカスのようにカラフルで大きなフリフリの花を咲かせます)が、エケベリアの花は黄色やピンクのすずらんのようなかわいらしい花。葉姿もかわいいのに、花もかわいい。
エケベリアの花は実は「黄色」がメジャーです。ただ黄色い花はあまり気に留められないのか、ピンクや、赤と黄色のコンビカラーが主力なイメージです。なお、花の色は個体差があって、特に原種の実生だと黄色かったりオレンジだったりまちまちになることもありますので、花の色で「これは〇〇という種に違いない」という断定は控えましょう…。
写真を整理していていちばん多いと思うのが黄色い花。原種でいうと花うららが代表的ですがメジャーな原種では意外と見なくてハイブリッドに多い印象。黄色い花は優性遺伝なのでしょうか。
ほとんど色のない淡くてシャビーなピンクから、ショッキングピンクまで。かわいさもあってとても目を引きます。
正確には黄色と赤のコンビだけど、その色分けがぼんやりしていてオレンジ色っぽく見えるコたち。
この色もエケベリアとしてはよく見かけます。セトーサやセクンダやそのハイブリッドによく見られるように思います。
エケベリアで赤い花は意外とレアです。もともと葉っぱもダークカラーのアフィニスやブラックプリンスくらいかな。
花芽を高く伸ばすものも短くコンパクトにまとまるものとあって多肉畑で個性を競っていますが、花芽の長さは同じ個体でもその年のコンディションによって大きく変わってきます。特に日当たりがちょっとでも悪いとニョキニョキと。これはもちろん「隣の植物よりも高いところに咲かせたい」から。彼らも必死です。
花芽の長さの気まぐれさがよくわかるのがこちらです。どちらも、1つのエルエンシノを株分けした2つの鉢。土も同じだし隣においてあったから日当たりも水やりも同じ。なのに、一方が太く短いのに、一方はひょろ長く伸びていますね。
花の大きさもマチマチですが、今まで見た中で度肝を抜いて大きいと思ったのがルシータ(ルンヨニー)の花。太く大きく、異次元の大きさです。
ラウイは花ではなくガクが大きいユニークな花を咲かせます。これも他では見たこと無い特徴ですね。葉っぱのカタチから想像できるようにパキフィツムに近いのかもしれません(自然に交雑した子孫なのかも、とか)。
エケベリアの花は細かくいうと、花は下または横向きに咲く、花芽はあまり分岐せずしても2~3本でどれも同じ方向、肉厚のガクが花の根元で開いている……といった特徴があるので、花が咲いたときにそれとは明らかに違う特徴があると「もしかしてエケベリア以外の属間交配種?」ということがわかります。たまに見た目はエケベリアなのに「特徴からセデベリアと推測される」なんて書いてあることがありますが、こういうときプロは花を見てることが多いです。
参考として、エケベリア以外ではどんな花が咲くのか? 近いものを集めてみます。
PUKUBOOKはオンライン図鑑なんだから、花の画像で検索できたらいいよね!というわけで、このたびサクッと「花画像検索機能」を追加してみました。この検索ボックスからキーワード検索すると花画像がある種だけ一覧できます。世界で唯一の「多肉植物の花図鑑」の完成です!
なんて。実はこの機能はPUKUBOOKを作った当初(6年前)からあった機能です。ただ、そもそもでてくる花の画像が少なすぎて使っていなかっただけ。それと理由はもう1つあって、検索のユーザーインターフェース、つまりどこにどういうボタンを配置して花画像に切り替えするか?みたいな「使い勝手の良さ」に対する答えが出てないこと。めったに使わない機能なのに、今の超シンプルな検索ボックスの邪魔になるようなことはしたくないんですよね。これは未だに出てないので、せっかくの検索ボックスだけどここ以外のところに配置する予定は今のところありません……。
いきなりですが、花が咲くことの価値って考えたことありますか? 多肉植物愛好家さんたちはなぜ花が咲くと喜ぶんでしょうか? そりゃもちろん、キレイでかわいいからでしょ?ということに間違いはないのですが、実はそれだけではありません。
植物が花を咲かせる目的はタネをつくって子孫を増やすこと。なので当然、花が咲くならタネが穫れます。タネが穫れれば、葉挿しとは比べ物にならないくらい圧倒的にたくさん増やすことができます(エケベリアは1株から数百個は穫れます)。
それに、葉挿しと違って違う種類をかけ合わせて新しいタイプを作る「交配」することもできます。自分だけの、世界で1つだけの品種を作ることだって夢ではありません。
あれとこれってよく似ているけど同じ品種かなぁとか、エケベリアっていうけど他の属が入ってるのでは…と疑問に思っている種があるとき、花を見ればそれを裏付けできることがあります。
と、いろんな価値がありますが、僕は花は多肉植物からの「お礼」とか「ご褒美」なんじゃないかと思っています。花は春にしか咲かないし、春になれば必ず咲くわけではありません。花がすぐにでも咲きそうな状態のいい株でも春先までには手に入れておかなきゃいけないし、子株なら1年以上前から手に入れ、過酷な夏を乗り切って、春までにベストなコンディションに持っていかなきゃいけない。そんな努力に対して「今年はよくできました」の印として花を咲かせてくれてるんじゃないかな、という感覚。これってまさに「ご褒美」ですよね。
多肉植物の写真を撮りためて早6年……(いやPUKUBOOKやる前から写真は撮っていたのでもっとかな)。種の写真自体はそこそこ集まってきましたが、単に出会えば撮れるふつうの写真と違って、1年に1回、限られた時期(時間帯)にしか出会えない「花の写真」はいまだになかなか揃えられていません。
僕はこの「写真を集める」というのを Pokemon GO のようなゲーム感覚でやっているけど、さらに難易度の高いゲームに出会ってしまったということですね。もはやこれは人生をかけて挑戦すべきゲームなのかもしれません……。