今週の価格高騰ラインキングで「サブセシリス」が急上昇やな
え? 人気が出たという話は聞かないぞ。ちなみに何割くらい上がった?
えーと。300円が15,000円なので50倍やな。
な、なんだってー!
ふつうは緑一色の植物が、白や黄色のストライプ模様に衣替え。
見た目にとても斬新で、数も少なく、思わず価格も高騰してしまう現象。
それを植物学の用語で「斑入り」と言いますが、多肉植物ではよくその斑入り種に「錦」という呼称が与えられています。
この「錦」は直接的には「錦鯉」から来ているそうなのですが、その「錦鯉」はというと、日本の伝統工芸である「錦織」から来ています。金や銀、光沢のある色鮮やかな糸を多数使い複雑な柄を織り込んだ生地。その色柄の美しさを競い合う世界観を「錦」という名前が受け継いでいるということですね。
ちなみに英語ではこれを variegated、ラテン語で variegata (バリエガタ)と言い、どちらも「斑」と同じ「まだら模様」という意味。また、葉の中心の色が抜けると「中斑」(ラテン語で medio-picta)、葉のフチに沿って色が抜けると「覆輪斑」(ラテン語で marginata)といった呼び方もあり「王妃雷神 白中斑」や「覆輪丸葉万年草」といった名前に使われています。
また、韓国では「金」ということもあります。これは「錦」も「金」も読み方が同じで、ハングル文字では区別できないまま流通しているためです(韓国では「金 GOLD」という意味だと思っている方が多いようです)。
市場に流通している「斑入り種」には、大きく3つの由来があります。
自然界の中に、斑入りの状態で存在するもの。見つかりさえすれば希少性はなく、ふつうの種として流通しています。学名に「f. variegata」とあるものは本来この「自然界にもともとあった斑入り」を指すんだと思いますが、そうじゃない斑入り種にもカッコいいから f. variegata って書いたりするので、流通上はあまり区別なく使われています。
自然界の中にはないけど、人が育てている中で突然斑入りになったもの。種から育てる実生で出たり、突然斑入りの枝を出す枝変わりもあります。斑入りかどうか以外はもとの種と同じ遺伝子を持つので、カタチが同じまま色だけ異なる完全な「カラバリ」になるのが特徴です(たまに、生長が阻害されるためか形が崩れている種もあります)。
「斑入り」という特徴は遺伝するため、別の斑入り種と交配することで元の種とよく似たカタチの斑入り種を作ることができます。本来は「〇〇と△△錦の交配種」となるところですが「〇〇錦」と命名して流通することもあります。名前だけでは、突然変異でできたのか交配で生まれたのかの区別が難しいです。生まれるレア度で言うと突然変異には劣りますが、結局、増やして市場に投入しようとすると自然発生の斑入り種と同じだけの時間がかかるので供給量は変わらず、市場価格は発生の由来よりも斑の美しさやその種のもともとの増やしやすさが影響しているようです。
斑入りであればすべてレアで高いのかというと決してそういうことはなく、斑入りでも斑無しと同じ値段で同じくらい流通しているものもあれば、同じ種の斑入りなのに10倍くらい値段が違うものもあります。
「同じ種の斑入りなのに10倍」になるのは、斑の入り方に個体差があるタイプ。例えば1つの斑入りの株でも、脇芽が出た位置によって斑が多くなったり少なくなったり偏ったりして、同じカキコのはずが生長した姿が違うということがあります。これは育て方ではどうしようもない遺伝子の差なので、良い斑を出す個体に高値がつくことがあるんですね。
一般的に「良い斑」とは、①株全体的に均等に斑が入ること、②その斑の1つ1つが細かく複雑な模様を描くこととされています。ぱっくり白黒に別れた株はインパクトは強いのですが、市場価格は控えめです。
それでは、PUKUBOOKオリジナルフォトギャラリーの中から、斑入り界のセレブリティや、永遠のスタンダード、個人的に注目のニューフェイスなどをピックアップ。斑入り前のもとの種も並べてみます。
ホームセンターでも見かける、斑入りだけどプチプライスの普及種たちです。
オーロラは一見斑入りに見えないのですが、よく見てみると細かい白い縦筋が全体的に入っています。もとの「虹の玉」と比べると全体的に色が淡くなっていて、夏はライトグリーン、冬はピンクになります。
ティテュバンス錦は最初は高値で出ましたが、増やしやすいためか、今はかなり価格も落ち着いてきています。プチプラと言うにはまだ早いかも知れませんが……。
りんご火祭は別タイプの斑入りで、細かな縦筋が入ってりんごみたいになるもの。レアです。キャンディーケーンは火祭ではありませんがよく似たコです。
2021年の春から見かけるようになったアトランティス。タケシマキリンソウの枝変わり。
ホームセンターでもよく見かけるカラフルサボテン「緋牡丹」は、牡丹玉の全斑です。葉緑素がなくてそのままだと育たないので、ガッツリ緑の台木に載っかっています。
一株1万円以上のお値段でデビューして、今もまだ高嶺の花の斑入りエケベリアの代名詞。インブリカータの枝変わりと言われています。高いのに溶けやすいので上級者向けです。
ルノーディーンが出てから、それに似た雰囲気の斑をもつ種を見かけるようになりました。ということはルノーディーンをかけ合わせてつくった斑入りなのかな?と思ったりもしますが出自は未明です。
斑入りは単に白くなるだけでなく、緑が無くなることで、その他の色がバツグンに明るくなることがあります。小人の祭り錦は赤が鮮やかでむちゃくちゃかわいいです。
お庭を華やかにしたいなら、大きなアガベの斑入りタイプがオススメです。サイズ、カタチなどいろいろあります。
ハオルチアはもともと小さく、カタチのバリエーションも控えめで花もシックなので、特にその斑入りの美しさが競われている業界と思います。よく普及しているプチプラもありますが、高いものはとんでもなく高いです。
マリンは宝草錦とドドソンのハイブリッド。宝草錦はハイブリッド親として重宝されていますが、もともと個体差の激しい宝草錦なので、生まれるハイブリッドも個体差が激しくなりがちです。
あえて別枠で紹介したい、斑入りアガベの高級種たち。特に氷山は、葉っぱ数枚の子株で数万円する宝石。ブランドと化しています。
緋牡丹はホームセンターでも見かけますが、緋牡丹錦は専門店で良い値がつけられているプロ向けの品種です。もともと赤と緑が混ざって黒っぽい色をしていますが、それがまだら模様になり、黒、緑、赤、オレンジ、ピンク、白…といろんな色が散りばめられ、個性を競っています。
ただでさえ人気が高くお高い ギムノカリキウム LB2178 G. mihanovichii LB2178 にその緋牡丹錦をかけてつくったハイブリッド錦。
サボテンの世界は歴史が長く、愛好家も多く、交配と実生でしか増やせない種もあるため、いろんなタイプの錦が多く流通しています。そんなディープな世界を極めてみたいものです。
実は、斑入りになる本当の理由は科学的には解明されていません。
もちろん直接的な原因はわかっていて「葉緑素を作る仕組みが壊れてしまっているから」です。
でも、どうして壊れてしまった斑入りの植物が自然界にも存在するんでしょう? ふつう、葉緑素が少ない株は他の健康な株より生長しにくいので生存競争に負けて子孫を残せません。次の世代には斑入りは絶滅して健康な種だけになるはず。ダーウィンの「自然淘汰説」です。
なので、1つ目の謎は「どうして自然界で斑入り種が生き残っているのか?」。つまり、生き残っているということは、環境によっては斑入りが有利になることがあるってこと。その多くは巨木の下などに見られるので、耐陰性を高めるのに一役買っているのかもしれません。例えば、葉緑素は日光から栄養を作れれば役に立つけど日光が不足すると余計にエネルギーを使う厄介者になるのかもしれない。だから日光の弱い環境では葉緑素が少ないほうが有利、とか。
#ちなみに葉緑素を全く持たない植物もあります。例えば日本にも生えている「アキノギンリョウソウ」。日が差さない森の木陰で、腐葉土を養分にして生きています。
もう1つの謎は「どうしてそんな『斑入りが生まれる仕組み』が残っているか?」。斑入りが本当にただの欠陥なら、そんな欠陥が起こらないように遺伝の仕組みそのものを改善しようとするはず。遺伝子はコピーするときにコピーミスが起こってそれが進化の引き金になることはコロナウィルス変異株のニュースでも聞いた話ですが、動植物の遺伝はもっと高機能なので、起こしたくないミスはほとんど起こらないようにする仕組みもあります。斑入りが起こる確率を限りなくゼロにすることだってできるはず。
それなのに斑入りがわりと高い確率でポコポコ生まれるということは「偶発的に斑入りが生まれる仕組み」があるんじゃないかと想像します。例えばある植物が新天地を求めて種をばらまいたとき、そこがたまたま斑入り種に有利な環境だとしたら、ふつうの株よりも斑入りの株が生まれたほうが多く生き残れます。なので、その可能性を試すためにも「斑入りが生まれる仕組み」をあえて残しているんじゃないでしょうか。
つまり、斑入りは失敗ではなく投資。ただのマイナスではなく長期的な小さなプラス。「人の助けがないと生きていけない弱い種」というよりも、あらゆる可能性を探ろうとする植物の生存戦略の「奇抜な一手」なんじゃないかと思っています。(個人の感想です)
暑くなる夏の季節だからこそ、さわやかなストライプカラーを取り入れたい!と思って書き始めた「錦」特集ですが、結局コアでディープな世界に片足を突っ込む羽目になってしまいました。
レアでかわいい錦タイプを見かけると心が踊りますが、新種は育て方も確立していないことが多いので、いったん落ち着いて待つのも手です。
自分なりの付き合い方を探っていってください。