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PUKUBOOK Succulent picture book

2022.4.1 用語解説「石化・モンスト」編 ―― 悪魔的な魅力に溢れる秩序が崩壊した世界

「石化」とは、生長プログラムがバグって独特のカタチに生長する現象の1種で、生長点が本来出てくるべき場所でないところに発生してカタチが乱れた株のこと。まだ規則性を保っている「綴化」と違い、原型を全くとどめていない株もあり、秩序が崩壊したその世界は悪魔が支配する混沌の世界を具現化したようなダークな魅力にあふれています。

人によっては不快に感じる写真も掲載されています。特に集合恐怖症の方はご注意ください。

石化の読み方といろんな用語

生長点が線上になる「綴化」をサボテン業界で「せっか」と読む習慣が先にできたため、「石化」は「せきか」と読まず「いしか」と読みます。ただ、最近では学術的なモンスト種(f. monstrosus)全般のことを指すようになり、そうなってくると「ゴツゴツとした石のようになる」とは印象が異なるためか用語として衰退し、今は単に「モンスト」と呼ぶことが多くなってきています(個人の感想です)。

ちなみにこの「いしか」が転じて「獅子化」ということもあります。これはライオンのたてがみのように見える種に名付けられているので粋な洒落っ気だと思います。

セレウス 金獅子 まさに「獅子化」の名にふさわしいモンスト種

英語では monstrous で「異常な形をした/奇形の/ひどく醜い」といった意味。monstrose というスペルも見かけますが、monstrous の古いスペル。学名上は monstrosus と言った表記をよく見ますがこれは男性名詞で、他に女性名詞 monstrosa 、中性名詞 monstrosum といった表記も見かけます。

サボテンの石化

もともと「石化」というと、サボテン業界で「生長点が無数に発生してゴツゴツとした石のようになること」だけを指していたけど次第に学術上の「モンスト」=「生長点が乱れてカタチが崩れたもの」全般を指すようになったという印象(個人の感想です)。本来の「石化」の説明にもマッチする「生長点が無数に発生してゴツゴツとした石のように」なった株たち。綴化や群生株と違って生長する方向や頻度に規則性が全くありません。

エキノプシス 世界の図
エキノプシス 噴火山
マミラリア 紅姫星
マミラリア パインテリモンスト

株が小さい頃や、石化の度合いが低い株は「本来は単頭株だけど群生株のようになる」程度の、規則性の残っている株もあります。このテヌイシマも大株に生長すれば石化らしいランダムな異形になっていきます。

コピアポア humilis ssp.tenuissima
コピアポア テヌイシマ モンストローサ

秩序の崩壊

先のモンストは頭一つだけみるとなんとか本来のカタチを保っているように見えますが(つまり「分頭」の頻度が異常なだけ)、その頭の形成に異常が起こると本来のカタチを全く保てない異形の株に生長します。

セレウス 金獅子
キリンドロオプンチア 光沢団扇
キリンドロオプンチア 拳骨団扇
マミラリア 高砂
マミラリア フレッド
ユーフォルビア ホリダ
ユーフォルビア ホリダモンストローサ
フォーカリア 怒涛

異形・奇形

本来は生長点が出てくるべき場所でない頻度で発生するとゴツゴツとした石のようになっていきますが、それとは違って、本来は違うところで働くべき遺伝子が異常に発現してキメラやフランケンシュタインのような異常なカタチを生み出す株も「モンスト」と呼ばれます。本来の「モンスト」はこちらを指すイメージで、逆にこれらを「石化」と呼ぶことはほぼありません。

アガベキュービックはその中でも特に秀逸な「異常」の持ち主で、葉っぱを伸ばすところまでは正常だけどその葉っぱを形作る遺伝子が異常。何に由来しているのかまったく想像できない十字断面や、主トゲが複数出てきたりとまさに異形。見ててぞわぞわしてきます。

アガベ 雷神
アガベ キュービック

本来は平たく広がるはずの葉っぱが筒状になったものも「モンスト」と呼ばれます。その葉っぱ以外は正常なのでモンストと言う割には安心してみていられる感じです。

出典 flic.kr
クラッスラ 花月
クラッスラ ゴーラム
エケベリア ピンキー
エケベリア トランペットピンキー

新たな秩序/進化のトリガー

モンストは基本的に「バグ」であって、正常なカタチを作れなくなった株は生存能力も低く自然界では淘汰されてしまう運命……であるはずですが、バグという割にはその新しいカタチがたまたま規則的だったり、むしろ生存に有利な面があったりして生き残っていくということもあります。

ハクランモンストは白鸞鳳玉のモンスト種ではありますが、イボを角のように高く大きく伸ばすところが「異常=通常とは異なる」というだけで、生長した姿は美しさを感じる星型で、たとえばアリオカルプス岩牡丹のように新しい秩序が誕生しているように感じます(もちろん異常は異常なのでキレイに角を伸ばしている個体は稀で、生長すると不規則になることもあります)。

アストロフィツム 白鸞鳳玉
アストロフィツム 白ランモンスト

また、アストロフィツムのカプトメデューサエは自然界に存在する立派な1つの「種」ですが、どう見ても通常のアストロフィツム、いやサボテンのフォルムからはぶっ飛んでいます。これは自然界で発生した「モンスト」が結果的にうまくいき、生き残って定着した種ではないかという仮説。生長が遅く繁殖の機会が少ないサボテンや多肉植物は、綴化やモンストが他の種よりも起こりやすいようで、それが進化の重要なトリガーの1つになっているのではないかと思わずにいられません。もちろん個人的な憶測の域を出ませんが。

アストロフィツム カプトメデューサエ

まとめ

人間の目と脳は生存のために「正常」と「異常」を見分ける能力がもともと備わっていて「異常」なものを「不快」に感じたり避けようとするのは生存のための本能=自然な反応だと考えられます(なので空想の世界のモンスターは異形だし、そもそも「モンスター」という単語が「怖いもの/異形なもの」という意味)。けど、そうした本来ネガティブなはずの感情の変化を逆に「感動」と捉えて「ステキだ」「魅力的だ」と感じることができるのも、人間の心の不思議でもあります。これからも、ディープな世界にいざなっていただきたいものです。

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