「綴化」とは、生長プログラムがバグって独特のカタチに生長する現象の1種で、茎などの本来はまっすぐ棒状に生長しないといけないところが帯状に広がったもの。帯は単純に横に広がるだけでなく激しくうねって空間を埋め尽くしたり、成長点が細かく分化することで小さなロゼットが無数に散らばった星屑のようなロゼットを見せたり、その個性的なフォルムから園芸界では古くから重宝されてきました。
漢字が難しいけど辞書的には「てっか」と読みます(漢字変換するときも「てっか」と入力してください)が、サボテン業界では昔からずっと「せっか」と読みます。起源をたどると読み間違いから始まっているようですが、業界では定着しているのでそういうものだと思って倣いましょう。植物学用語では「帯化(おびか)」といい、英語では「crested(トサカ化)」で、ラテン語では「cristata(意味は一緒)」と言いますがあまり普及していません。サボテン屋さんでは大きな声で「せっかください!」とオーダーしてください。
ちなみに植物のバグ生長といえばもう一つ「石化」という現象があって「綴化」を「せっか」と読むと「せきか」と紛らわしいですよね。なのでここで「石化」のほうを「いしか」と読むという逆サイドアタックが繰り出されます。さらにこの「いしか」が転じて「獅子化」ということも(これはライオンのたてがみのように見える種に名付けられているので粋な洒落っ気だと思います)。ただこちらは最近では英語から来た「モンスト」と呼ぶことが増えてきたように思います。
植物は生長する課程でいろんな変化やバグを起こすことがありますが、その手のバグの中で綴化は本当にバグとみなされているようで、できるだけ修復しようとしたり、子孫に継承しないように努力している感じがします。つまり種を撒いても継承しなかったり、綴化していた枝から急に正常な枝が生えてきたりと、どんな繁殖方法でも100%継承するということがないんだとか。生長したらどんな姿になるかは時の運次第。すべての株が世界に一つだけの個性的な株になるというのも、綴化種の魅力の1つです。
柱だから、球だからという明確な区分があるわけじゃないけど、サボテンの綴化には大きく2タイプがあるようです。そのうちの1つが柱サボテンタイプで、柱の先が時々扇状になる立ち姿が特徴。ユーフォルビアのマハラジャもこのタイプです。
もう1つ。球サボテンの綴化タイプは全体的には球形に納まってはいるけど、その表面がうねうねとした帯で覆われていて、遠目には「脳みそ」に見えるもの。英語でも「ブレインカクタス」と呼ばれています。脳みそ脳みそ……なんて想像していると気持ち悪く見えてきてしまいますが、その造形は目で追うところが多く、複雑な造形で、なかなか見飽きさせない見事なものです。
エケベリアたちの綴化はまた少し趣が変わります。枝の部分だけを見ていると、扇状というか板壁のようにそそり立ちながらときどき葉っぱがちょんちょんと無造作に生える様子はあまり美しいとは言えませんが、その枝の先にロゼットが開くとふだんよりもずっと小さなロゼットが何倍もの数になって群生するので、まるで満開の桜のような美しい株に生長してくれます。多肉畑から少し早い春をお届け♫みたいな気分です。
直接的な原因やメカニズムは、いまのところはキチンと解明されていません。わりとばっくり「生長する仕組みに異常が発生して」本来は細く伸びるところが帯状に生長するようになったと理解されています。
なので、ここから先はただの個人的な想像で恐縮ですが……。
逆に、そもそもどうして植物は、茎は縦にまっすぐ伸び、葉っぱは水平に薄く広がるんでしょう? 単細胞生物が何も考えずに増殖するとアメーバにように(悪い例えだとガン細胞のように)丸っこいカタマリにしかなりません。それを細く縦に伸ばすとか、水平に薄く広げることができるのは、そういうカタチを作るためのプログラムが植物に備わっていて、茎では茎用の「真っ直ぐに細く伸ばすプログラム」が発動する仕組みになっているということ。
乱暴に言っちゃうと、綴化というのは、茎なのに間違って葉っぱ用の「薄く広げるプログラム」が発動したということなのかなーと理解しています(「サボテンに葉っぱはないよ」と言われたら「花びら用」と言い張ります)。
綴化やモンストというとサボテンや多肉植物。サボテンや多肉植物といえば綴化やモンスト。そんなイメージがありますが、サボテンや多肉植物は他の植物に比べると綴化やモンストになりやすいようです。それが生長の遅さ(成長は遅いけど進化は急がなきゃいけない)や生存戦略にどんな役に立っているのか?と考えるのも楽しいけど、今はただそんな野暮なことより、美しく珍しい造形にただ心を奪われておきます。