多肉植物に限らず、植物の育て方や管理方法に「肥料は要りません!」なんて書いてあることがあります。あ、そうなん? 要らないならやらないことにするわ。よくわからないけど。めんどくさいのは無い方がいいし。
なんて軽く考えてません? ほんとに要らないの? やらなかったらどうなるの? やりすぎたらどうなるの? もちろん本を開いてみれば正解は書いてありますが……
ここでは通説や理屈は後回し。とにかく実際にやってみて、結果だけをばばんと貼り付けていきます。どうぞご覧ください!
ことの発端はこの アガベ ベネズエラ A. desmettiana 。確か1年くらい前にカキコを採って挿して放置しておいたものなんだけど、「あれ? 全然生長してなくない?!」って。一番生長していたカキコはむちゃくちゃ元気ですくすくと生長し早々に期間限定ショップで里子に出していたのに比べ、こいつらは生長していないし、黄色くなって覇気を感じない。なんでだろう。
そんな疑問を持ったときが自分の成長のチャンス! 何をしたらいいかは本にも書いてあるけど、ほんとにそれが効くのか比較実験してみます。
9鉢あったので、①なにもしない / ②追肥だけ / ③植替と追肥 の3グループに分け、3鉢ずつ作って経過観察。よく「大きく育てるには植え替えしましょう」と書いてあるのでそれを試すのが③で、「もしかしたら追肥だけでもいいんじゃない?」という仮説を検証するのが②です。
さぁ約2ヶ月後。驚異的な、圧倒的な差がつきました。①の何もしていない株は3鉢とも相変わらずほとんど動きがありませんが、②も③も内側の葉っぱが健康的なグリーンカラーを取り戻し、肉厚でツヤツヤな健康的な葉っぱを伸ばしています。
もともと同じくらいのサイズだった株を並べてみたのがこちら。もちろん③の植え替えした鉢が1番元気そうですが、それよりも、追肥しただけの②もかなりいい感じに健康さを取り戻しています。
ここからわかることは、大きく育てるには植え替えが効果的だけど、忙しくてできないなら、せめて追肥だけでもしていこう。じゃないと大きくならないぞ!ということですね。
じゃあ、肥料をたくさんあげるほどもりもり元気に育ってくれますよね!と素直に発想して、本当にやりすぎてみたのがこちらです。同じくらいの大きさのアロエ スプラフォリアータ A. suprafoliata の実生苗にご協力いただきました。
おや? 肥料を大量にあげた株だけ、大きくなっていないどころか、ちょっと縮んでる?
こちらは別の目的(用土による生長の違い)で比較実験しているエケベリア 女雛 E. 'Mebina' さんたちです。アガベやアロエよりは用土や肥料に敏感なのでよりわかりやすい結果になるかなぁと思っていると……。
なんと、肥料を過剰に与えていた1番右側のコが小さくなるどころか、縮みきって消えようとしています……。この後抜いてみたので直接の原因ははっきりしていて、それは根っこが育っていないからです。
じゃあなんで根っこが育たないのか? その原因の1つは、半透明のプラポットのおかげではっきりわかります。藻が繁殖しているってことが。つまり、豊富な肥料成分に喜んだのは多肉植物じゃなくてその周りにあるバクテリアたち。勢いづいたバクテリアの猛威に耐えられず根っこや下葉をやられて縮んじゃったみたいです。
肥料のやり過ぎはダメ絶対!ですね。
※肥料のやり過ぎで植物が痛むことを「肥料焼け」と言います。字面だけ見ると肥料で直接的に根がダメージを受けた感じがしますが、おそらく今回のように、肥料成分で元気になったバクテリアにやられることを指しているのかもしれません。肥料のやり過ぎで痛むのは根だけでなく、葉っぱも痛みやすくなります。ジュレの一因でもあります。
さて、後回しにしていた理屈の登場です。といってもサラッと行きましょう。
動物が生きていくためにはエサを食べなければいけません。が、ほとんどの植物は食事をしません。植物は水と二酸化炭素からエネルギーを作る「光合成」を行うため食事をする必要が無い……って、たしか理科の時間に聞いた記憶があります。
けど水と二酸化炭素で作られるのは、おおざっぱに言うと、人間でいうところの「米だけ」みたいな感じです。米だけでもそこそこな期間は生きられると思いますがそのうち体を壊しますよね。体を動かすエネルギーはあるけど、体をつくる材料が無いからです。
この「体をつくる材料」が肥料です。ということは、どちらかというと「肥料が必要ない植物は存在しない」が正解ですね。
じゃあなんで「肥料は必要ない」と書いてあるのかというと、もともと用土や水に肥料成分を含んでいるので、長期じゃなかったらそれで足りるということですね。つまりあえて追加する必要がないってこと。「肥料が必要ない」という説明をするときは大抵の場合、「最初の1~2年は」とか「一定以上大きくする必要はないから」とか「水道水に含まれる微量な肥料で足りるから」といった前提条件が隠れています。
元気にスクスクと大きく健康的に育てたいと思ったら、どんな植物でも適切な肥料が必要です。
実は世界で最も肥料を輸出している国はロシア(2位は中国)。けど、ウクライナ侵略に伴う経済制裁と黒海が封鎖されて海上輸送ができないことがあって供給が停止し、世界的に肥料価格が高騰しているんだそうです。肥料が値上がりすると穀物も値上がりし、食肉も値上がりし……とインフレの連鎖が起こっています。
肥料だけで見れば、多肉愛好家としてはDAISOに行けば100円で使い切れないほど十分な量の化成肥料が手に入りますが、それがこの先もずーっと続くわけじゃないかもしれないというお話です。
止まらぬ肥料価格の高騰に日本は耐えられるのか? (WEDGE)
肥料を撒きすぎると植物が育たないというマイナスもあることをお伝えしましたが、もう1つ大きな懸念があって、それが環境汚染。肥料成分が畑から河川や地下水脈に流れ込むといわゆる「汚れた水」になってしまいます。昔は生活排水をそのまま河に垂れ流していて住宅街の河は臭かったなんてこともありましたが、肥料は成分的にはその「生活排水」と同等。過剰な流出はさまざまな問題を引き起こします。
個人が園芸で使っている分には問題になる量ではありませんが、少なくとも、余ったものを空き地や河に捨てるなんてことはしない程度の意識は持っておきましょう。
というわけで、ちょっと脇道にそれましたが、実際にやってみた特集はいかがだったでしょうか? 結論としては当たり前で平凡ですが、つまり、
用法用量を守って正しくご使用ください。
に尽きます。ただ、改めて覚えていただきたいのは、どんな鉢植えでも最初の1~2年はほぼ確実に追肥が必要ないので、肥料どうしようかなぁという問題は初心者を脱した中級者くらいが取り組む課題です。初心者の方は変わらず「肥料は要らないのね」という認識で大丈夫ですよ!
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