ラウイ、サブセシリス、ブレビフォリア、クラシカウレ……。植物の名前って聞き馴染みのないカタカナ語が多いなぁって思いません? これは「植物の学名はラテン語」だから。ラテン語って何? ていうかどんな意味なの? せっかくなのでこの機会にちょっと勉強してみましょう。好きこそものの上手なれと言うように、好きな植物の名前から入っていけば勉強もはかどって、すぐにペラペラのラテン語マスターになること請け合いです!
生き物に限らず「名前」は各国の言語によって、いやいや地域によって、様々な呼ばれ方をしています。けど、学術的な研究をするのには、世界で共通の、1種で唯一無二の呼び名が必要だよね!ということになって、今から300年くらい前にスウェーデンの博物学者カールフォンリンネによって体系立てられたのが今の「学名」です。
そこでラテン語が選ばれた理由は「死語」だというのが大きかったようです。つまり、今現在、どこの国のどの人も、日常会話で使っていない言語だということ。生きた言語は時代によって意味がだんだん変わってくるということがよくありますが、ラテン語にはそれがないということ。意味も変わらないし新語も生まれません。
#というわけでラテン語をペラペラにマスターしても、ほぼ誰とも会話できません……。
日常会話には使えませんが、意味を知ると、聞き馴染みのなかった植物の名前もスッと頭に入るようになって、よりいっそう楽しく、好きになれることは間違いありません。さっそく勉強していきましょう。
なにか別のものをラテン語化したもの。「ラテン語は新語が生まれない」と言ってみたけどいきなり例外で、いろんな国の言葉が入ってくるのでより新しい響きのものもあります。ときどき日本語も混じっていてなぜかちょっと嬉しくなります。
末尾に i や ae とつくものは多くの場合「人名」に由来しています。昔から「新種を発見すると自分の名前をつけることができる」と言われているヤツ。もちろん自分の名前をつけるというよりも、尊敬する人の名前を敬意を持ってお借りする「献名」のほうが多いみたい。
ちなみに語尾の「i」はわりと大事で、英語圏では「brandtii」を「ブランティアイ」と「i」をオマケではなくちゃんと読む意識があるようです。
ラウさんと牧野さんについて詳しくは下記コラムにまとめています。
動けない植物は特定のエリアにしか生息していないことが多く、その「エリア」に由来した名前も多く見かけます。var. xxxx といったバリエーション名で、その地域の固有種であることを表すことも多いです。
別の植物に似ていることがそのまま名前になっていることもあります。oides が「~に似た」、pseudoは「ニセモノの~」という意味。和名にするときもそのまま「~モドキ」とか「ニセ~」というので聞き馴染みはありますよね。それは単に人間が発見した順番であって、彼らに真似しようという意図はないので失礼しちゃう話ではあります(たまにホントに擬態しようとしてる確信犯もいますけど)。
白というのは清らかなもの、神聖なものの象徴。人は誰しもその色に憧れ、畏怖を覚えるのでしょう……。
対して、黒いもの。ダークサイド。
ルブラ、ルベンスといった名前もよく見かけますが「赤」です。
プルプラやプルプレアは紫色。イオナンタの ion も「紫がかった/紫色の石」と言った意味がある別の単語。
カエルレウムやコエルレウムといった名前は「青」に由来。cymatilis は学名としてはレアだけど明るい青。azur は本来スペイン語に由来していてラテン語の辞書にないけど学名としても時々登場します。
ビリジアンという色名の由来にもなっているので聞き馴染みがありますよね。植物は本来緑なので、本来は緑じゃない部分(花とか)が緑だと採用されることがある感じ。
憧れの栄光のカラー。黄色く輝いて見える斑入りなどに用いられます。
アルゲンテアは白銀。厚いワックスや、色がなくなって透過していて輝いている様子に。ただややこしいけど(たぶん)argentina は国名のアルゼンチンか人名に由来している感じです。
植物の各パーツに由来しているケース。大抵は「大きい葉っぱ」というように別の形容詞と一緒に使われます。
花に特徴があるもの。花は植物の特徴をよく表すのでよく見かける…と思いきや。
花びらのこと。英語でもラテン語と同じく petal といいます。意外と「花 flora」よりも多い感じです。学者さんはもっと細かいところを見てるということ。オタク体質ですよね(褒め言葉)。
カウレやカウリスは茎を表す単語。茎が太かったり短かったりするコーデックスでよく耳にします。
葉っぱに特徴があると「~フォリア」という名前に。こちらもよく聞きます。
トゲといえばサボテン。サボテンやアガベなどトゲトゲな植物にもってこいの名前。英語でも spine なので違和感はありません。
斑の入り方がそのまま学名になっているケース。
みたまんま中斑。メディオピクタなんてカタカナを見ると身構えちゃうけど、大丈夫、意味はふつうです。
みたまんま覆輪斑。マルギアーナなんてカタカナを見るとうっとりしちゃうけど、大丈夫、意味はふつうです。
「そなたは美しい」。直球で最上級の褒め言葉です。『美女と野獣』の主人公ベル Belleももちろん「美女」に由来しています。ちなみにアロエで最も有名な「vera」は「真実の」という意味の別の単語。
マグナやグランディもよく聞きますが、大きいという意味。スタバも最大サイズはグランデですね。
逆にブレビやパルバは小さいという意味。
モケモケであることを意味する単語。ホリダスやホリダは horror の語源になってることから「恐ろしい」という意味だけど「毛深い」という意味もあるそうです。たしかに西洋の悪魔は毛深い獣っぽい感じです。
ラテン語にはドイツ語のように「男性・女性・中性」という「変化」があって、さらに学名だと「種小名は属名の性に合わせる」というルールがあるので、同じ意味でも複数のかかれ方をされることがあります。似たような単語で -a や -um や -us といった終わり方をしているのが多いのもこれ。僕はこれでドイツ語を挫折したので(笑)ばっくりと「同じ意味の似た単語があるんだな」くらいゆるく認識しています……。
「ラテン語の辞書」なんて、植物を好きにならなかったらきっと一生触らなかったと思います。勉強って本来こういうもの。好きなことを新しく知るのは楽しくてしょうがないこと。そんなところにも気づいていただければ幸いです。