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PUKUBOOK Succulent picture book

2022.3.4 「3Dプリント鉢」をガチレビュー! 多肉植物業界に襲来した最新テクノロジーのイノベーション

竜のウロコ、西洋の甲冑、3次元メッシュに、……ひ、ヒエログリフ?!
何の話かといえば、植木鉢の話。それも、最新テクノロジーであるところの「3Dプリンタ」で作られた植木鉢のお話です。

今、3Dプリンタ鉢は、技術革新の時代から、デザインルネサンスの時代へ大転換を迎えています。今回はそんな最新の造形作品を総力特集していきます。

PUKUBOOK撮影の写真(ロゴ入り)とフリー素材以外の写真は制作者様から許可をいただいて掲載しています。CREATIVE COMMONSではないので転載はご遠慮ください。

3Dプリンターとは?

3Dプリンタで出力されている完成間近のGyropot
コンピューター上で描いた3Dモデル

カンタンに言えば、コンピューターで描いた立体を現実の物体にする機械のこと。古くは1980年代くらいからあった技術で、2000年ごろから一般的に利用されるようになってきたものの、当時はまだカタチを確認するためだけの脆くて実用性のないものしかできなかったのが、2000年代の終わり頃から耐久性のあるプラスチック素材や金属も使えるようになってきて、さらに機材の低価格化も進み爆発的に普及。今まさに「1億総3Dクラフト時代」へと突き進んでいるところです。

3Dプリンタ鉢のポイント

その「3Dプリンタ」って何がそんなにすごいの? 今までの素材や作り方と何が違うの? 3Dプリンタ鉢を選ぶ上で押さえておきたいポイントは「造形」「機能」「素材」の3点です。詳しく見ていきましょう。

造形美:絶対に作れなかったカタチが創れる

モノのカタチは何でもできるというわけじゃなく、素材と作り方にどっぷり依存します。陶器は柔らかい粘土として自立するカタチじゃないと焼けないし、磁器やプラスチックの量産品は「型」に注入して取り出すので型から抜けないカタチは成形できません。どちらも基本的にシンプルなコップ型から逸脱することができず、側面に穴が空いていたり、水平に突起物が出ていたり、表面を極端にデコボコさせたり……なんてカタチは作れませんでした。

その限界を突破したのが「3Dプリンタ」。今までの素材や作り方では絶対に実現できなかった造形ができる、まさに魔法の機械。新しい道具を得た人類は、新しい創造力を発揮して、今まで誰も見たことなかった新しいカタチを見せてくれるようになりました。

機能:究極の機能性を追求できる

今まで作れなかったものが作れるというのはなにも見た目だけに恩恵があることではなく、機能の追求にも貢献しています。例えばプラスチックポットは「型に注入して取り出す」ため側面に穴の空いたものを作るのがむちゃくちゃ難しく「プラスチック鉢=通気性がない」は常識として定着しています。それが3Dプリンタを使えば、全体がメッシュになった、どんな素材の鉢よりも通気性の良いスカスカの鉢が作れます。それだけではなく、鉢底穴をメッシュにしたり底上げしたりして鉢底石を不要にしたり、内側にリブを作って根回りを防いだり。多様な機能を持ったプラ鉢がリリースされています。

素材:耐久性・耐候性は大丈夫?

3Dプリンタ用素材といえば、昔はカタチを確認する程度の強度しかなく実用に耐えませんでしたが、今はほとんど、他のプラスチック製品と同等の強度と耐久性があり実用に問題はありません。過酷な環境でも3~5年は問題なく使えるということ。とはいえ、そのプラスチックの種類によって少し注意が必要なのでポイント解説してみます。

PLA ポリ乳酸

3Dプリンタ作品としてよく利用されている素材。PLAは「プラ」じゃなくてPolyLactic Acidの略(ピーエルエーと読む)。

柔らかくなる温度が低いので扱いやすく失敗が少ないのがよく利用される理由の1つだけど、それがデメリットにもなっていて、製品の耐熱温度がやや低くて50~70℃くらい。真夏の直射日光を浴び続ける環境だと「変形した」という報告が、たま~にあります(逆に「全然問題なかった」という声のほうが多いことは強調しておきます)。

またポリ乳酸というと「バイオプラスチック」と言われて自然に分解されると言われますが、それはコンポストのような環境だけで自然環境ではほぼ分解されないとのことで(つまり一般認識の「自然分解される」は誤解)、植木鉢として耐用年数は十分あると思われます。

※ポリ乳酸のエコ&サステナポイントは「原料に石油を使わない」ことで「バイオマス」プラスチックと言います。バイオプラスチックと似てるけど混同しないでね☆

ASA
ASAは耐候性を高めたABS樹脂。
写真じゃ伝わりにくいけど、PLAより明るく青みがかって見えます(手前のPPと比べるとさらに違いが明らか)

レゴブロックにも使われているABS樹脂の耐候性を高めた素材で、郵便受けや自動車外装などの屋外で使われているというお墨付きの屋外専用素材。耐熱性が高いのと縮みやすい性質があって3Dプリンタでの造形にはコツがいるようです。PLAと比べると光沢感があってほんのり青みがかって見えます。

PC ポリカーボネート
温室の屋根にも使われるプラスチックガラス

カーポートやサンルーム用のプラスチックガラスとして利用されるくらい、強度と耐候性に優れた素材。家で使っている無印の洗濯バサミもこれ。耐熱性が高いので3Dプリンタでの造形が難しいのが難点。

さて、3Dプリント鉢の基本を押さえたところで、ココからは実際にお取り寄せした作品をご紹介がてらガチレビューしていきます!

knog

knog 龍鱗鉢 "Dragon Bowl" + アガベチタノタ No.1 。プラスチックとは思えないメタリックな質感。ウロコはよく見ると1つ1つ向きやカタチが違うというこだわりの造形。

甲冑のようなウロコ、ヒエログリフ、月面のクレーター、ゴツいトゲトゲのゴブレット……。どれ1つ取り上げても他にはない個性的な作品ばかりで、もはや3Dプリンタ鉢に見えないその造形と質感の作品を数多くリリースされているのが knog さん。

knog Hieroglyph pot Long Black&Gold + アロエ スプラフォリアータ

そのヒミツの1つは「塗装」していることで、メタリックな質感やツートンカラーを実現。でももう1つの秘密はその「造形」。一見「絶対に3Dプリンタじゃないと作れないカタチ」というよりも、どこかで見たことあるような雰囲気に感じます。行ききってない、気がする。

knog SLIT BLADE Ⅱ + アガベ ロッキー白山

この「今まで見たことある」けど「実は絶対に3Dプリンタじゃないと無理」な攻め具合が絶妙なのが、この独特な世界観のヒミツじゃないかと睨んでいます。材質に、丈夫だけど扱いの難しいポリカーボネートを使用されていたり、見えないところで重ねた努力も垣間見えます。

knog
多肉植物、塊根植物、サボテンなどワイルドな植物に似合うknogのオリジナル鉢を販売しています。

SSN

SSN鉢 trigger別注モデル + レウクテンベルギア 晃山

僕が「3Dプリント鉢」を最初に知ったのがこのSSNシリーズで、ブロガーのゆるぷさんが制作(そのブログに3Dプリント技術に関する考察も書かれていて勉強になります)。invisible inkにもあるような、深く大きな三角スリットがチャームポイント。材質はPLA。

TRIGGERのロゴが織り込まれた柄
側面の形状と質感
底面の大きな三角スリット。細かい土が溢れるのでネットを使ったほうが良いかも。我が家定番の「黒い網戸ネット」が大活躍。
内側にあるトリプルネーム

写真の作品は、関西の多肉植物専門店「trigger」さんの別注モデルで、アパレルブランド SunDog とのトリプルネーム。triggerのロゴを柄に溶け込ませた土器のようなデザイン&フォルムが美しい完成度の高いモデル。2021年に限定抽選販売されたけど現在完売。再販が待たれます。

trigger オリジナルプラ鉢
きっかけ、刺激、始動…あなたのtriggerになる植物を。面白い品種・生長・変化をした個性ある植物を中心に、植物のかっこよさ、美しさ、楽しさをご案内……

plants greed / K wald

plants greed 龍鱗 + アガベ 姫乱れ雪 / ジャイロイド + アガベ 五色万代

より細かく複雑な造形の竜のウロコをまとう竜のフィギュアの一部を切り取ったような「龍鱗」と、細かな3次元メッシュの「ジャイロイド」を側面に配した鉢。素地仕上げなので均質なプラスチックながら、その造形の作り込みが細かく、ややマットな表面に描かれる光の陰影で目を楽しませてくれます。ジャイロイド部分の表面はややゴツゴツとした雰囲気になっていて、光を乱反射するので少しマットな質感。材質はPLA。

個人的にはむちゃくちゃ好きな雰囲気の、いかにも3Dプリンタらしい造形に思わずニヤニヤしちゃうのは K wald さんが制作されている plants greed というプラ鉢シリーズ。

内側には根回りを防ぐリブ
底面はハニカムメッシュ

ジャイロイドのシリーズは機能性を重視していて、鉢底が大きなメッシュになっていたり、根回りを防ぐリブが立っていたりという工夫が施されています。

龍鱗のディテール

ファンタジーなフィギュアがそのまま変形したようなドラゴンシリーズ(って勝手に呼んでる)はデザインの試行錯誤が大変なのか数が少なめなのが惜しいところ。気に入ったデザインは即ゲットしておいたほうが良さそうです。

plants greed
観葉植物、特にBizarre Plantsと言われている塊根植物や多肉植物メインに「成長・機能・美」をテーマに作成いたしました……

Gyropot / Bachi

Gyropot

逆に。3Dプリンタでしかできない「独自の造形」ではなく「内部構造と機能」に特化しているのが Bachi さんが制作している Gyropot シリーズ。余分な装飾がいっさいないデザインは、イカツイ系があまり似合わないすっきりモダンなインテリア・エクステリアと相性が良いし、植物の複雑な造形をより強調してくれます。素材は耐候性が高いASA

フォルム自体は極めてシンプルな植木鉢ながら、そのほとんどすべてが「ジャイロイド」という3次元メッシュ構造になっている、ジャイロイド全面推しのプロダクト。その排水性と通気性はテラコッタの比ではありません。

Gyropotのディテール
Gyropot 底面のロゴ。底面メッシュの細かさは業界トップクラスで、どんな細かい土でもほぼ土こぼれしません。

ジャイロイド(wikipedia)自体は植木鉢用ではなく「少ない材料で大きな3D構造を作る」ことができる70年代に発見された3次元構造。なので3Dプリンタ業界全般で作例が見られるし、ジャイロイドを使った3Dプリンタ鉢もいろいろあります(先に紹介した plants greed さんも使ってますよね)。でも、その中で、ホントにジャイロイドだけを使っていて、それでいてフォルムがシンプルながらきちんと美しいプロダクトに落とし込めているのはBachiさんだけかなぁと思っています。

僕もプロダクトデザインをカジッていたのでよく分かるのですが、シンプルで美しいカタチってすごく難しいんです(Appleや無印のデザインと、それになりきれないその他多くのデザインを思い浮かべてみてください……)。それに「ジャイロイド」という素材の質感をそのままデザインに活かす(無印がよく心がけている手法)というのもプロっぽくて個人的にむちゃくちゃ好きです。

2.5号のミニポットは、3Dプリンタ業界で最安値クラス。コストダウンを図って手に取りやすい価格設定にしてくれるのも「プロダクト志向」で好感ポイント。

余談ですが、ちょうどつい先日くらいのタイミングで、Bachiさんは株式会社ゼロメディカルに事業を引き継いだというニュースが飛び込んできました。と言っても制作者が変わったわけではなく、もともと個人の趣味でやっていた副業が、本業で勤めていた会社に認められて「本業としてやろう」となったレアケース。今後は植物鉢にとどまらず、培った技術を福祉の就労継続支援や福祉教育に活かしていきたいとのこと。Bachiの売上も福祉活動に使われるとのことで、そういった面でも応援しがいのあるプロジェクトと思います。

Gyropot / Bachi
BACHIで作成しているジャイロイド構造の植木鉢「Gyropot」は、「植物が育ちやすい環境」をコンセプトに作った植木鉢です……

GRIDPOT / Green Mountain

※1年越しに「GRIDPOT特集」をさせていただくことができました。こちらの記事をご覧ください。

以前PUKUBOOKでもガチレビューさせていただいた「3Dプリント鉢」。作家さん、デザイナーさんのアイデアを柔軟にカタチにして...
GRIDPOT
GRIDPOT™(グリッド鉢)は、「スリット鉢の次の鉢」をコンセプトに設計された3Dプリント製の高機能プラスチック鉢です……

3Dプリント鉢の今後

造形と機能の追求はまだ始まったばかり

「3d printer art」でイメージ検索すると、3Dプリンタで造形するとどんな世界が待っているのか、その可能性の深さをうかがい知ることができます。もちろんこれはアートなのでそのまま植木鉢や園芸の世界に持ってこれるものではありません。似合うか?という問題もありますし。

ただ今後は、いわゆる植木鉢の常識を遥かに超越した作品が生まれてくるのは間違いない。こんなに可能性を感じる世界はなかなかありません。

「3Dプリンタだから」の限界は突破できるのか?

「モノのカタチは素材と作り方に依存する」と書きましたが、それは3Dプリンタでも同じ。3Dプリンタの特性上「どうしてもこうなっちゃう」というポイントがいくつかります。今回いろんなプリンタ鉢を取り寄せて見比べてみて気づいたところをメモしておきます。

① プラスチックの色と質感…塗装

まず当然ですが、材料がプラスチックなので、色と質感がプラスチックです。備前焼、コンクリ、木…といった違う素材の質感にはなりません。ここは knog さんのように「塗装」したり、さらにいろいろな二次加工することで突破しようという試みもあります。金属素材もプリントできるようになってきているし、今後いろんなものが出てくると思います。

② 底面が平ら
多くの3Dプリンタ鉢の底は「真っ平ら」

地味だけど意外と見落とせないと思ったのが、底が真っ平らなものが多いこと。これ、3Dプリンタの性質上、底が平ら(造型台に接している面が広い)でないとうまく成型できないんだそうです。ただ、底が平らな鉢を平らな台に置くと水がたまって逃げていきません。それに平らな台って意外と多くなく、少しでも歪んでいるとうまく置けないってこともあります。足がほしい。接地面はできるだけ小さくしてほしい。今回お取り寄せした中では knog さんの作品はうまく解決されていました。

③ ツルツルは苦手
ロゴや柄のまわりをよく見ると、横に細かい筋が走っています。これが3Dプリンタ造形の特徴の1つ。

3Dプリンタは細いプラスチックのひもを積み重ねていくという造形手法なので、平らな面はどうしてもその紐を並べた細かい筋(極端に言うとすだれのようなイメージ)が残ってしまいます。それと「ピン角」の表現が苦手で、ちょっとカドが膨らんでしまうみたい。こうした特性があるので、あえて表面をザラザラにするか、研磨やメッキ塗装などが試みられています。

「全自動だから安い」は誤解/作家性と価格

ホントは最初に言っておくべきだった衝撃の事実として、3Dプリンタ鉢は、1つ作るのに小さくても8時間、大きいと50時間といった膨大な時間がかかります。1~2日でようやく1個できるペース(1個3,000円の利益があったとしても1ヶ月で9万円。食っていけません)。それでいて100%成功するわけじゃなくて失敗することだってあります。プラスチック製品だから量産できて安くできるんでしょ?は誤解です。

それに、一般的なプラスチック製品は「型」を作るのに数百万~数千万円かかることもあるので何万個と量産しないと元が取れませんが、3Dプリンタは量産する必要がありません(むしろ量産には向いてません)。もちろん「デザイン」には対価が必要です。でも、作家さんが「このデザインには時間はかかってるが1個しか作らない。その代わり10万円だ」といえば、それで通る世界でもあります。それを評価して10万円出す人が1人いれば成立する世界。作家さんが有名になって数が少なければ高騰するなんてこともあるかもしれません。

たくさん作って価格を抑えて多くの人に使ってもらおうとするか、生産数を絞って1個入魂で制作しようとするのか、それは作る人次第でどちらも正解。我々消費者としては、己の審美眼を鍛え、軍資金を蓄えて、来たるべき新しいクラフトの世界を待ち望むだけ。

マネはよくない?!

3Dプリンタは機械を使って造形しているので真似しやすいという問題があります。もちろん造形には著作権があるので、まるまるパクって我が物顔していると痛い目を見ることがあるかもしれませんが、相手が大手企業でもない限り現実的ではありません。

それよりも、パクったなら堂々と「この作品を参考にさせていただきました」と宣言することが大事かなと思います。たとえ本人が言わなくても周りから「この作品はこっちの作品に似てるからリスペクトかな?」と指摘するとか。そうやってちゃんと元のアイデアを評価することで、トータルとして、元のアイデアを出した人が利益を得ることができる。それにどんどんと改善案が盛り込まれてすごい勢いでイノベーションが生まれていく

それって、インターネットが登場して以来の、よくも悪くもネット文化の本質だと思います。

まとめ

今回紹介した3Dプリント鉢の多くは、東急ハンズ渋谷店の特設コーナーで展示販売されているそうです。その東急ハンズ渋谷店で開催されるイベント情報も捕捉。お近くの方はぜひ足を運んでみてください。

SHIBUYA植沼 PLANTS SWAMP
アガベ・コーデックスから3Dプリント鉢やアート作品まで、ビザールなプランツワールドの最先端が都心のど真ん中である東急ハ...

3Dプリンタの世界は本当に始まったばかり。今回紹介しきれなかった作品もたくさんあります。またぜひ「第2回」もできたらな-と思います。楽しみで仕方がない!

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