アガベに限らず「カット苗」は多肉植物ならではの販売形態。扱い方を覚えておくとメルカリなどで安く気軽に人気の品種をゲットできるので、是非マスターしておきたいところです。今回はそんなカット苗の中でも特に人気の高いアガベ チタノタ(オテロイ)に特化して、具体的にどういう条件で発根管理すると良いのかを実験してみました。難しい理屈抜きです。どうぞ!
なお、エケベリアなども含め「カット苗」の一般的な育て方については下記コラムをご覧いただければと思います。
比較したい条件以外はできるだけ同一条件にする、というのが科学の鉄則です。今回用意したのはメルカリで販売されていた「ブラックアンドブルー」の未発根苗を10本。おそらく海外から輸入してきたメリクロン苗(同一遺伝子)で大きさもほぼ揃っている。それでも個体差はあるかもしれないので、各条件で2~3本ずつ寄植えにして平均を取ります。開始時期はカット苗の管理には適期と言われる3月上旬から。
比較したい条件の1つ目は「水」。水はあったほうがいいのか、ないほうがいいのか。ネットでは強炭酸水を使ったら良いというウワサもあるのでそれも検証します。
比較したい条件の2つ目は「光」。安定した半日陰に相当するLED(2~3万lux)、日陰に相当するピンクLED(6000~1万lux)、天然の直射日光の3パターンです。
「水たっぷり」の「半日陰」を軸に3パタンずつなので、計5パターンでの比較実験です。
エケベリアは水無しで発根させると言われますがアガベはどうなんでしょうか?
水たっぷりは文字通りたっぷりで、鉢に深めの受け皿を用意して常に水を張っている状態で「腰水」というやつです。苗の状態が良くないとジュレるリスクはありますし、実際に今回の実験中でも下葉がジュレることもありました。
結果は今回最も優秀な成績を収めてくれました。水は絶対に必要ということですね。
逆にまったく水をやらないとどうなのか。エケベリアなどの発根管理は基本的に「根が出るまでは植え付けずに乾燥させる」とあるので、アガベも同様に水をまったくやらなくてもちゃんと発根してくれるはず……という期待を込めましたが。
結果は厳しいものとなりました。2ヶ月まったく動きを見せず。最終的にしびれを切らして「ちょっとだけ水をやってみようかな」と土を湿らす程度の水やりを1週間間隔でやり始めたところようやく動くようになりました。
ネットでたまに「強炭酸水」を使うといいよ!という話を聞きますが本当でしょうか? 理屈はさておき実際にやってみました。
結論としては「有意差は見受けられず」といったところです。数字だけ見ると「ちょっと遅れた」訳ですが、これが強炭酸水に由来するのかはもっと数をこなさないとなんとも言えません。ただ、わざわざお金を出して炭酸水を用意して「ちょっと遅れる(早くならない)」ならやる必要もないんじゃないかなーとは思います。
理屈だけ考えると、炭酸が植物に直接ダメージを与えるようなマイナスの影響がないとするなら、炭酸水をまいた後は空気中の二酸化炭素濃度がぐっと上がって光合成が促進され、発根も早くなる、という仮説は立てられます。であれば、炭酸水を撒く頻度を増やすか、特に呼吸が活発になる夜に欠かさずやるとか、そもそも炭酸ガスを散布したり発生剤を使うとかしたら良いのかなーと思いますが、それはまた今度。
水は絶対に必要です。あればあるだけ良いと結論しても良さそうです。ただもちろん、発根させるには水は要るけど、常に濡れているとジュレるリスクが高まるので、事前に苗をしっかり乾燥させる(特にカキコの場合)、土や苗を殺菌する、サーキュレーターで通気を良くするといった対策はできるだけやったほうが良さそう。
実生のようにカバーが要るかというと、風通しが悪くなるリスクもあるので要らないかなーと思うところですが未検証なのでなんとも言えません。
置くところは日陰? それとも日なた?
一般的にカット苗の管理は半日陰くらいが良いと言われるので、それに倣った環境です。分散型のやや赤みのあるLED(4000~5000Kくらい)で照度は2~3万lux。イメージとしては「朝日が優しく差している」感じです。
結果としてはベスト。見るからに快適そうでした。
もうちょっと光の弱い環境だとどうなるのか。分散型のピンクLEDで照度は6000~1万lux。日陰をイメージしたと言うよりは、よく植物工場で発芽・育成に使われるピンクLEDだったら良い影響があるのか?を確認した実験です。
実は今回「最速」で発根したのはこの環境の中の1本です。確認したのが10日後でしたが実際はもっと早かったかも。ただ他の2本はそれに及ばず平均としては半日陰環境の1.5倍。ピンクLED云々よりも、単に光が弱かったからかもしれません。ここは次回の検証課題です。
LED環境じゃなくて、屋外の直射日光に当ててみます。ふつうはこんな環境で発根管理はしません。よね?
結論としては発根しませんでした。3ヶ月経ってもまったく動きなし。しおしおに縮んでしまいました。実験結果としては十分なので中断し、先の「半日陰」環境に持ち込んだら、なんと1週間で発根しました。もちろん、日光以外にも気温や湿度がまったく違うのですべて直射日光のせいにするのは乱暴かもしれませんが、少なくとも「屋外の直射日光管理はダメ絶対」とは言えそうです。
ちなみに、厳しい環境だからあえて一番大きな苗を選んで使ってみたんですがダメでした。他の環境での結果を見ても、苗の大きさと発根のスピードはあまり関係ない気がします。
日光は強すぎても弱すぎてもダメ。ややマイルドな「半日陰」環境がベスト。
開始から1ヶ月後の発根状況です。
グラフにまとめてみました。黒い線が各条件での平均日数。
水なしは、水たっぷりの約3倍。
日陰は、半日陰の1.5倍。
日なたは、ほぼ絶望的。
というわけで、水たっぷりの半日陰が理想的ということですね。
今後そのようにさせていただきます。ありがとうございました!
今回は「水」と「光」だけに絞って実験しましたが、他にも条件はありますよね。「土」とか「風」とか(異世界ファンタジーみたいだ)「火」…じゃなかった「気温」とか。用土は種まき用が良いのか? 赤玉が良いのか? はたまた水苔か? 肥料を入れるか入れないか? 風が強いと良いのか悪いのか? 夏や冬では? 屋外の日向と日陰とか? 最初の苗の大きさや、下葉を取るか取らないか?
また別の機会にいろいろやってみたいと思います!