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PUKUBOOK Succulent picture book

2021.12.17 赤と緑のクリスマスカラー!寒さに強い多肉植物「センペルビブム」の生態と育て方

街を歩くと、いや街を歩かずネットをウロウロしていても、そこはクリスマス一色。寒くなってくると園芸界隈も自然と静かになってきますが、そんな寒い冬にこそ、むしろ雪に覆われた極寒の季節だからこそ、イキイキ輝く多肉植物がいます。それが「センペルビブム」たち。

冬に強いと言われるけど夏に弱いセンペルビブムを絶対に夏越しさせるアグレッシブな方法も紹介しつつ、ちょうど紅葉の時期を迎えて赤と緑のクリスマスカラーに彩られたセンペルさんを総力特集いたします。

センペルビブムとは?

出典 flic.kr
センペルビブムの現生地での様子。高い山の上の岩場に根を張っています。

寒さに強い多肉植物をお探しの方に、まず一番に紹介したいのがこのセンペルビブム。主にヨーロッパの、年中寒くて冬は厚い雪に覆われる山間部や高原エリアにお住まいの、完全耐寒仕様の多肉植物。その小さなカラダに似合わず、-30℃の極寒にも耐えると言われています。

屋根の上に芽吹くセンペルビブム

人類とは1000年以上の長いお付き合いのある植物で、山小屋を建てると屋根の上によく生えてきて、これが落雷から家を守ってくれるという言い伝えも残っていることからも、親しまれてきたことが伺えます。

園芸の聖地ヨーロッパ生まれということは

他の多肉植物と違ってなんとなく高貴なイメージなのと「ヨーロッパ原産」というのは偶然というわけでもなさそう。ヨーロッパと言えば庭園。庭園と言えばバラ。そんな華やかな園芸の中心地ヨーロッパで古くから愛されていたセンペルビブムたちは、交配や品種改良によって色柄豊かな多くの品種が生まれ、流通しています

名前をよく聞く定番種はもちろんあるけど、新品種の登場や衰退は今も激しく、出会った品種はもしかしたら次の出会いは無いのでは?という一期一会感もコレクター心を刺激します。

センペルビブムという名前

「センペルビブム」とはラテン語で「センペル(常に)」+「ビブム(生きている)」という意味。「センペル=永遠に」と説明している文献もありますが、辞書的にはそういう意味はなくて意訳かもしれません。和名はその意味を汲んで「万代草」といいます。

センペルビブムって読みにくい?

そうなんですよね。唇が動きません…。なので、センペルビウム、センペルビュームという表記も見かけます。が……ちょっと待って! よくよく聞いてみると、英語ではこれを、センペルバイバム(英国)とか、センペルビーバム(米国)と読むようです。これだとちょっと読みやすくないですか? 個人的にこれが普及してくれないかなーと密かに思ってます(単に「センペル」っていえば通じるのでそれで事足りますが)。

英語ではこんな名前も

センペルビブムは長きにわたって広い地域で愛されてきたこともあって、英語圏ではいろんな呼び名があります。

「House Leek」直訳すると「家のネギ」ですが、花が咲く時に花芽を伸ばした姿がネギのカタチに似ているからそう呼ばれるんだとか。ネギとは何の血縁関係もありません。「Hens and Chicks」とも呼ばれますが「雌鳥とひよこ」です。子株をたくさんつけて寄り添っている様子から、でしょうか。

雷にちなみ、ギリシャの空と雷の神ユピテル(ジュピター)や北欧神話の雷神トールに結びつけて「Jupiter's Beard」や「Thor's Beard」という名前も残っています(Jupiter's Beardはそのまま「ジョビバルバ」という属名になっています)。

近縁種

センペルビブムに近い仲間をその違いとともに紹介して、センペルビブムの輪郭を描いていこうという恒例のコーナー。

ジョビバルバ
ソボリフェラ 6月中旬
ランナーらしいランナーがないのも特徴(手前はセンペルの脇芽)

パッと見で区別をするのが難しい属。学術的にはセンペルビブムと同じものとされています。大きな違いは子株の出来かたで、ジョビバルバはランナーを伸ばさずに、親株のすぐ近くに寄り添ってポコポコ群生します。くっつくチカラも弱くてちょっと触るとポロポロはずれます。そのままコロコロ転がって広がっていく戦略でしょうか。

「雷神ジュピターのヒゲ」の名を持つセンペルビブムのニュータイプ。センペルの花は赤系だけどジョビバルバは黄色系、花びら...
ロスラリア

こちらも外見で区別するのは難しいですが、花を咲かせると、エケベリアに似たすずらんのようなかわいい花を咲かせてくれます。

エケベリア? いえいえ、オフセットで増え、まんまるコロニーを作り、凍りつくような極寒に耐え、ヨーロッパからヒマラヤに...
アエオニウム

いやいやだいぶ見た目が違いません?って思うかもしれませんが、いやいや、ツヤ感あって固くてパキッとしたプラスチックのような葉っぱの質感が似ていません? そう。見た目の印象は異なりますが、血縁は近く、センペルビブムが西アフリカのカナリー諸島に渡って、そこでガラパゴス的な独自進化をしたのがアエオニウム。センペルビブムと同様に冬に強いので寄植えにオススメです。

膝丈くらいに木立ちした先にパッとロゼットを咲かせる、ひまわりのような姿で、多肉ガーデンでは主役クラスの存在感。夏に弱...
オロスタキス

オロスタキスも近いグループ。ランナーを伸ばして増えるところや、花の咲き方がセンペルやアエオニウムに似たコたち。同じように高原エリアにお住まいで寒さに強い種もあります。

ぱっと見は葉っぱの薄いエケベリア。でもガンガン子株を飛ばして増えまくるその繁殖力は多肉トップクラス。日本にもお住まい...
エケベリア

同じベンケイソウ科の中ではかろうじて近いといえば近いですが、生息エリアも増え方も見た目も違うので一緒に植えるのは控えたほうが良いかなーと思う境界線。中にはセンペルのようにランナーを伸ばして増えるコもいます。

多肉の中でトップクラスの人気を誇るエケベリア。「ロゼット」の名の通り、放射状につける葉っぱがまるでバラの花。たくさん...
ミセバヤ

血縁も生態も全く異なるグループですが、「寒さに強い」というのと「ヨーロピアンガーデンで活躍している」というポイントで園芸的にジャンルが近いグループ。センペルと一緒にお庭を飾ってあげてください。

多肉植物というより花壇の前面を彩るカラーリーフや花苗として扱われることがあるグランドカバータイプ多肉。寒さに当たると...

センペルビブムの育て方

極寒にも耐えますが 夏の暑さにご用心

もともとヨーロッパアルプスにお住まいの高山植物で -30℃にも耐えるという情報もあるから基本的に冬はノーガードでOK。ただ逆に夏の暑さに弱いので、夏の暑い時期は、日差しを避ける、水を極力控える、涼しい場所に移すなどの手厚い保護を……。と言いたいところですが、いっそのこと全部抜いてトレイに並べて日陰に置いておくことをオススメします。球根のように。

子株をたくさん出して増えます

若い株でもおかまいなしに、子株をよく出しどんどん増えます。出てきた子株はすぐに切り離しても生きていけますが、できれば1~2cmくらいの大きさになるまでは切り離さずに親から養分をもらっておくと成長も早くなります。カットした子株は植え付けなくても1年くらいは生きていけます。万一のときの予備に取っておいても良いかもしれません。種のように。

環境にもよりますが、その後1年で3cm程度の苗に、さらに1年で6~10cmの親株に成長します。

花はめったに咲きませんが咲くと枯れます
センペルビブムの花

子株として生まれて、2~3年ほど順調に成長すると花を咲かせることがありますが、花を咲かせた株は枯れてしまいます。なので子株はきちんと保護して常に数株程度は育てるようにしておくのが長く楽しむ秘訣です。

育て方の実践講座 「センペル丼の1年の様子」

具体的にどうやって育てたら良いの? 1年間の季節ごとの管理の方法は? 夏越しってどうしたらいいの? それは文章で書くよりも実際に見てみたほうが早いですよね。

2020年6月 つまり前の年のピーク時

こんなもりもり「センペル丼」を目指しましょう!

7月の失敗

この最高にもりもりで密々のセンペルですが、梅雨前になんの対策もせずに放置すると甚大なダメージを被ります。これを避けるのが最大の目的です。具体的対策は最終章で……。

2020年7月 密密のまま放ったらかしでほぼ全滅したセンペル……。今年こそはこんな事態にならないようガンバリマス!
11月 子株の植え付け
2020年11月3日 夏にぼろぼろになったのを更地にして、予備にとってあった脇芽を少し追加
2020年11月11日 水やりが効いて少し開いてきました

夏に甚大なダメージを受けたセンペル丼を更地にして、残った子株と、予備でとってあった脇芽を申し訳手程度に植え付けました。こんなにスッカスカで大丈夫?

1月 苗の植え付け

ちょっとスカスカすぎたので、3号ポットを4鉢買ってきて追加しました。左側が11月植え付けの子株、右側が1月植え付けの苗。この時期からでも十分楽しめることを証明します!

2021年1月25日 3号の苗を4種追加

これから寒さのピークを迎えますが、わりとちょくちょく水やりをしていました。

3月 紅葉のピーク
2021年3月1日 ぐっとボリュームがでてきました
巻絹はこのくらいの時期がころんころんでかわいい
2021年3月16日 紅葉はこのくらいの時期がピーク
2021年3月30日 元気な芽は脇芽をぐんぐん伸ばし始めます

センペルの春は早い。真冬でも成長を続け、3月に入るともう脇芽を伸ばし始めます。注目すべきは、ここで脇芽を伸ばしているのは左側、つまり昨年生まれたばかりの子株なんですよね。1年で10倍になるねずみ算式繁殖力。

ダイナモ 冬のカラーバリエーション ゆっくりじっくりと色づいていく、見るたびに違う姿になっていて飽きさせません
5月 見頃
2021年5月1日

古い葉っぱが大きくなって、空いていた隙間がほぼ埋まってしまいました。紅葉は流石に控えめになってきましたが、逆にこの時期でも十分に紅葉しているということでもあります。

見頃と言う割に、この時期の写真が他にないのはなんでだろう……。

6月 成長のピーク
2021年6月12日 もうこれ以上ないくらい密々に……紅葉は冷めてきました
2021年6月12日 脇芽と、密々過ぎの子株を間引きました

さらにボリュームアップ。もう隙間がなくて、脇芽がロゼットの上で根っこを伸ばすカオス状態だったので、脇芽を外すのと同時に密すぎるところを間引きました。

7月 梅雨に備えて「収穫」という名の抜き苗保管
2021年7月4日 これ以上ムリ!な状況でさらにボリュームアップしようとするセンペル
このままだと全滅するので半分以上を抜いてスカスカにしておきます
右が抜いた直後。枯れた葉っぱにカビが生え、黄色く傷んだ葉っぱもある危険な状態。左のように葉っぱをキレイに取り除いて通気を良くしておきます
風通しの良い日陰で保管

11月の「点々」だったものが半年で密々にまで生長してくれました。このままでは去年の大災害を繰り返してしまうので、思い切って半分以上を引っこ抜き、トレイに並べて涼しいところで休ませます。

8月 最終章(ハッピーエンド)
2021年8月29日 最終章。間引いてスカスカになった丼はなんと「ノーダメージ」で夏を乗り越えました
2021年9月21日 抜いておいた脇芽は…日当たりが悪すぎて徒長しちゃったけどみんな元気

8月の終わり。暑さもちょっと和らいだころ。「枯れてもいいや」のつもりで放置していたスカスカの丼が「ノーダメージ」だったのを見たとき、「センペルの育て方」の核心を得た気がしました。

人気の品種

センペルビブムは同じ個体でも1年を通して姿形や色柄がコロコロコロコロ変わるので、見てて楽しいという魅力である一方、「この品種はこういう特徴がある」というのが特定しにくいのは正直なところです。冬や夏のピークカラー、モケモケの量、葉っぱのカタチ、ロゼットの最大直径や子株の量などを1年を通して並べて比べているとなんとなくつかめてくる感じです。

やっぱりオリジナル 代表的な原種
テクトラム 「ふつうのセンペル」という名前があるくらい「センペルと言えばこれ」的な存在。モケモケが少ない固く長くツンツンした葉っぱが特徴。いろんなバリエーションがあります
巻絹 葉先に糸をまとって糸玉のように見えるセンペルのオリジナル。糸は雪よけのマフラーだと思われます。暖かそう。
ボリシー(キリオスム) 密な葉っぱでコロンとしたフォルムでモケモケというかわいい要素を詰め込んだセンペル。レア。ただ巻絹も時期によってはこんなフォルムになります。
他とは違う特徴がある園芸品種
バニラシフォン 他とは違う特別な品種といえばバニラシフォン。形や色ではなく「子株が白くなる」という特徴があって、まるで白い花を咲かせているように見えます。
百恵 変わった品種といえば百恵。葉っぱが突然変異して筒状になっています。
サンバースト バニラシフォンのような曙斑だけど親株の中心が白く、グラデーションが美しいコ。国内流通がないレア種。
無限のバリエーション 園芸品種の世界
ジャンヌダルク 葉っぱのカーブ、密度、真紅のグラデーション、少しモケモケ感のある葉先など、ゴージャスな気品を備えたセンペルの中の女王。個人的にトップクラスに好きなコ。
グラナダ テクトラムに似たオーソドックスなセンペルだけど、毛足がながくてモケモケしています。
ブラックミニ 名前の通り黒くて小さい、と言いたいところだけど黒っぽい赤でサイズはセンペルとしては中の小くらい。
ガゼル 巻絹のようなモケモケ種。なぜか(笑)検索上位に上がってくる人気種。
綾桜 ブルーグレイの葉っぱに赤いティップがチャーミング。やや中型で子株をよく出し群生するタイプ。
バーンステイン ウォームブラウンからオレンジイエローという、グリーンやワインレッドの多いセンペルにはありそうで意外と無いレアカラー。

まとめ

ちょっと価格が安いし、似たようなコが並んでるし、他のバラエティ豊かな多肉植物たちに比べるとどうしても1段下に見られがちなセンペルさんたち。でも園芸の本場ヨーロッパでは、遠く離れたメキシコ出身のエケベリアたちよりもずっと長い間ガーデニングに関わってきたオーセンティックな多肉植物ということが伝われば本望です。

イングリッシュガーデンのような自然派ヨーロピアンガーデンがお好きな方は、ぜひお庭の隙間にチマチマ植えて、可愛い花を愛でていただければと思います。

故郷がヨーロッパアルプスの高原なので、砂漠や南国出身の多肉さんと違い、なんとなくヨーロピアンな雰囲気。その雰囲気は偽...

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