ちょうど先週から公式ショップ「PUKUBOOK COLLECTION」でトートツに多肉植物のカット苗販売を始めてみましたが(「PUKUBOOK SUCCULENTS」として独立しました)、そもそも「カット苗」なんてほぼ多肉植物業界でしか流通していませんよね?(強いて言えばサツマイモの苗か)多肉植物を長いことやっていると当たり前になっているけど、多肉植物を知らない人は、それってなに?どうしたらいいの?と思って手が出なくて当然。
なので、今回は初心者さん向けに「カット苗を手に入れたらどうしたらいいの?」を解説してみようと思います。つまり、販売しているカット苗の取扱説明書のようなものですね。
その名の通り、カットした苗です。切り花をイメージしていただけるとわかると思いますが、ふつうの植物はカットするとすぐ枯れちゃいます。が、多肉植物はこの状態で1~2ヶ月は平気で生きながらえるだけでなくそのまま根を出し根付くため、そのまんま流通させちゃおうというものです。
園芸の世界でもっと身近なものでいうと「球根」のようなものですね(「種イモ」もそうかも)。球根だって本来は春を待つ冬の間にずっと地中に埋まっているものですが、掘り出しても乾燥させても平気なのでそれをそのまま流通させています。カット苗も、ちょうどそんなイメージです。
球根を植え付けるのに最適な時期があるように、カット苗の植え付けにも最適な時期や環境があります。ざっくりまとめると以下のような環境です。
1. 気温は 10℃ ~ 25℃(今後2週間の最高/最低気温をチェック)
2. 明るい日陰
3. 風通しがいいところ
つまり、ちょうど今頃の季節、9月~11月の、直射日光があまり当たらない屋外だと何も考えなくてもいい感じの環境。3月~6月も同様にベストシーズン。12月~2月は寒くて外だと発根しにくいので、よく日の当たる室内で(そのまま春まで室内管理が無難)。7~8月は風通しの良い日陰で安全に休眠させるイメージです。
植え付ける前に、カット苗の底を見て根が出ているかどうかを確認します。
根が全く出ていなかったら、植え付けするのは待ったほうが無難です。育苗トレイや金網などの通気性の良い容器に並べて、直射日光があまり当たらないところに保管します(朝イチの早い時間だけ木漏れ日に当たるくらいの日照が理想的)。1週間おきに様子を確認。徒長してきたら日照が足りません。少し日の当たるところに移動します。茎が曲がってきたら苗の向きを変えて逆向きに曲がるようにしてあげてください。
#寒かったり、日差しがまったく無いところだと、植物が目覚めようという気が起きなくて発根が遅くなります。春の陽気を感じられるような、まろやかな環境を作ってあげてください。
アロエやハオルチアなどは、外葉よりも上の茎から新しい根が出ることがあります(なんと外葉を突き破って根を伸ばします)。外から見たらまだ根が出ていないと思っても、葉っぱをめくったら中で発根していたということがあるので、外葉を何枚かめくって確認してください。
少しでも根が出ているようであれば、そのまま植え付けしてOKです。さらに、植え付け後すぐにたっぷりと水やりしておきましょう。このあと苗が水を吸い始めるのを確認できるまでは、常に鉢の表面がしっとり濡れているくらいにしておきます(1~2日おきに水やり)。
ちなみに慣れてくると発根していないどころか、カットした直後の乾燥していない状態でもそのまま土に挿すようになります(笑)。ただそれは水やりのタイミングが掴めていたり清潔な用土を使っていたりといった経験のなせる技なので「植え付けは根が出てから」がやっぱり無難です。
用土は多肉植物用の培養土であればなんでも大丈夫です。粒の置きさは細粒から小粒程度(1~6mmくらい)。鉢のサイズは6~9cm。鉢底石はなくても大丈夫です。
ただ、万全を期すなら、苗に直接触れる用土はできるだけ清潔なものを使ったほうがいいです(逆にいうと、うちみたいにリサイクルした用土を使うなということです)。「清潔な」は園芸用土でいうと、有機成分が入っていない、単一素材の用土のことで、細粒の赤玉土や鹿沼土がオススメ。ホームセンターで手に入りにくいのであれば「さし芽・種まきの土」というを選んでください。それを、多肉植物用の土の上にかぶせます。
苗が水を吸ったかどうかを確認する方法はいくつかあります。
1. 葉っぱを触るとパツンパツンに
2. 葉っぱのシワが減る
3. 根っこが伸びて毛細根が出ている
まず中心に近い若い葉っぱをツンツンしてみてください。植え付けた直後は柔らかかったものが膨らませたゴム風船のようにパツンパツンに堅くなっていたらOK。もちろん、植え付けた直後からパツンパツンの葉っぱは無視してください。
触るほうがわかりやすいですが、中にはパツンパツンにならないものもあるため、その場合は葉っぱのシワの数や深さをチェックしてください。水を吸うとシワが減っていきます。
水を吸い始めてから葉っぱに変化が出てくるのにはそれなりに時間がかかるので(1日~1週間くらい)もっと早く確認したい場合は、苗をそっと持ち上げてください。根が伸びているだけでなく、根の先に細かい綿のような根っこが出ていたらOKです。確認できたらそのままそっと元に位置に戻してください。
ちなみにこの根は「根毛」といって、根の細胞が水を吸収するために伸ばした管。これがあれば水を吸う準備OKのサインですし、逆に根毛がない根は水を吸いません。多肉植物は用土に水分が全く無くても根を伸ばしますが、水がないとこの根毛を伸ばしません。水を吸う根を育てるために水分キープが重要なんですね。
少しでも吸水が確認できたら、水やりのサイクルを通常に戻していきます。といってもこの季節なら「土の表面が乾いたらたっぷりと」ですね。根張りが十分でない多肉植物は水の吸収も緩やかなので表面の乾きも健康な多肉植物より遅いです。1週間から10日くらいを目処に様子を見ながら水やりしてください。
日当たりももう少し明るいところに移動してもOKです。
根が十分に張るとは? だいたい以下のような状態です。
・外葉も含め株全体がパツンパツンになった
・軽く引っ張っても抜け落ちない/苗が動かない
・初期の頃にでてきた新葉が周りの葉っぱと同じくらいの大きさになった
このくらいになってきたら通常の多肉植物とおなじように、十分に明るいところに移動して大きくなってもらいましょう。
上記のような条件が整っていればほぼ失敗することはありませんが、整っていないと失敗することがあります。原因別にみていきます。
カット苗に限らず多肉植物でもっともありがちな失敗は「高温多湿によるジュレ」です。カット苗の管理は上に書いたように初期は水浸しにしますので特に高温は避けたいところ。その最も多い原因は直射日光。秋の涼しい日でも黒プラポットが日中に直射日光を受けると土の温度は40℃を超えることがあります。日光を当てる場合は朝の涼しい時間帯だけにしたいところです。
「ジュレ」の原因としてもう1つ注意したいのが、発根していないのに大量に水やりすること。苗が水を吸わないので特に苗の下の土が乾きにくく、下葉が痛んで芯まで到達してダメになるというケースが結構多いです。発根を促すためには水やりが必要だ!という考え方には一理あるのですが、ジュレるリスクを考慮すると「発根するまでは通気性のいいトレイ」がオススメです。
まだ水を吸わないカット苗は、水の消費が激しい環境だとカリカリになっちゃうことがあります。これも原因は日が当たりすぎのことが多いです。苗は涼しくなってきて日照が十分だと元気に生長しようとします。根っこがなくても。根っこがないのに活動しようとするときに使うのが葉っぱに蓄えた水分。根がないうちは積極的に活動することがないように日差しは控えめにしておきます。
逆に、いつまで経っても根が出なかったり水を吸わないケース。これは日照不足が疑われます。苗が活動を始めないと根は伸びてこないので、最低限の日照は必要。それか、暑すぎるか寒すぎることも考えられます。天気予報を見て最高気温が25℃を超えるか、最高気温が10℃を下回る時期の植え付けは避けるか、屋内に退避するかの対策を。
特に植え付け前に、育苗トレイに並べて涼しいところに置いているときになりがちですが、茎が間延びしたり、カタチが歪んでくることがあります。基本的には日照不足です。トレイは重ねて置いたりせず、必要な明るさは確保してあげないとダメです。あと苗をナナメに置いたりすると上を向こうとして歪んでくるので、できるだけ水平を維持できるように置き方を工夫するか、定期的に向きを変えるようにします。
カット苗は多肉植物の耐乾能力を知るのにとてもいい体験になります。多肉植物を初めて触って見る人には積極的にやってほしいと思って「イニシエーション」というコラムを書いていますので合わせてご覧ください。
また、このカット苗の管理方法がわかると「危険な夏をカット苗で乗り切る」というテクニックも使えるようになります。オススメです。
というわけで、多肉植物だけの謎形態「カット苗」の取り扱いについて解説してみました。一言でいうと、今の季節(10月~11月)ならまず失敗することがない に尽きます。カット苗だと余計なコストがかからないしネットでも気軽にお安くポチることができます。ぜひ初心者の方には挑戦していただきたいと願って止みません。