1億総ショップ店長さん時代とはよく言ったもので、本当にちょっとした知識とやる気さえあれば、誰でも今日から「多肉植物ショップ」をオープンすることができます。その切り札となるのが「海外からの苗の輸入」です。
今はネットや機械翻訳の発達だけでなく流通網もボーダレスになってきていて、海外のナーセリーさんと個人で小規模で取引できるような時代です。それこそ本当に、国内でも名のしれた多肉植物専門店さんが実際に取引している苗がほぼ同じ仕入れ値で買えちゃいます。この記事は、そんな専門店さんからしたら絶対に知られたくないようなノウハウの紹介っていうんだからまさに有料級の記事。けどPUKUBOOKは専門店じゃないので、すべての記録とノウハウを惜しげなく無料で公開しちゃいます。
#とは言え本当に専門店さんに迷惑がかかるとアレなので、具体的な業者名は内緒にさせていただきます……。
結論を先に言います。必要なのは、10万円くらいをドブに捨てる覚悟と、1品種10個単位で総数300個以上みたいなボリュームの苗をなんとかする覚悟です。(語学が要らないことや必要な基礎知識はこの記事で学んでいただければと思います)
ある日インスタのDMにこんなメッセージが。
売り込みのメールなんて脊椎反射でゴミ箱にポイする世の中ですが、このメッセージには手が止まる。ちょっと様子が違うな、と。インスタのDMが珍しいってこともあります。ただ「これはネタになりそうだ」と。記者としての嗅覚ってヤツでしょうか?(記者じゃないっつーの)
今回は業者さんのほうからDMを頂いたのでこちらから見つける努力はゼロでしたが、もっと取引先を見つけたい場合(取引条件・品質・ラインナップは業者によって様々です)は自分から業者さんを探しましょう。
最も良い手段はインスタだと思います(ツワモノはAlibabaやShopeeで探したりするのかもしれません)。#succulentや#agaveといったタグで検索して業者さんらしいアカウントを見つけたら、とりあえずDM。
「迷惑メールにならないかな?」という心配はごもっともです。もちろん手当たり次第に送りまくると「スパム」扱いされてアカウントが制限されてしまうかもしれませんが、そういうのは機械的に何万通と送ってる業者さんの話。常識の範囲内であれば大丈夫。
こちらからコンタクトをとる場合、どんなメッセージを送ったらいいのでしょうか? ここは難しく考えなくてOKです。文面は「日本に」「多肉植物を仕入れたい」「可能ですか?」の3ワードだけでもOK。自分が業者である必要はないので「個人です」とか「小口です」とは言わなくて大丈夫。余力があれば、先方の多肉植物がいかにすばらしいか、どれほど気に入ったかというメッセージを適度な熱量とボリュームで書き添えるとベターです。
最後にその文章をGoogle翻訳に通して、相手の母国語、英語、日本語の3ヶ国語併記して送信!(以降は相手が返信してきた言語に合わせればOKです)
ほら、ちょうどラブレターみたいなものです。名前も書いてないようなラブレターはゴミ箱行きだけど、一方的すぎたり、思いの丈が詰まりすぎたラブレターも怖いでしょ。その調度いい塩梅で、今ならきっと書けるはず。
「卸売できるよ」とか「検討するよ」いった前向きな返事が得られたら、具体的な取引条件の確認をしていきます。ここに書くことを順番に聞いていけばOKです。
いきなり見たこと無い漢字が並びましたが、大丈夫。「日本に販売できますよ」という時点で対応可能な業者さんのはず。今回の業者さんは最初のあいさつから「利用可能」と言ってますよね。このあたりの手続きは基本的に先方様にやっていただくことで自分たちはほぼ何もできないので、逆に「やったことない」とか「なにそれ」という業者さんとは取引できないと思ったほうが良さそうです。できるまでとことん付き合うというのもビジネスとしては面白いかもしれませんが。
もっとも重要なのがこれ。1回の注文でどれだけオーダーすればいいのか、です。「小売」とはよく言ったもので1個でも売ってくれますが、「卸売」はまとまった注文がないと断られます。多くの場合は、1回の注文の合計金額と、品種1種類あたりの注文数量に制限があるので、これを確認します。
ここが大事なのは「小口注文を相手にしてくれるか?」の確認だからです。「最小ロットは100万円です」と言われたら即「さようならー」ですよね。
今回の業者さんはそれぞれ、合計14万円以上だけど初回は7万円、1種10個以上(単価によって1個)という制限がありました。行けそうです。
「商品リストをください」とお願いするとたいてい送ってくれるので、気になるものをピックアップして「見積もり」を依頼します。
このとき、配送方法にどんな選択肢があるのか確認しておきます。大きく分けると、高くて早い「航空便」と、安くて遅い「船便」があります。中国や韓国だとそれぞれ、1ケース8,000円程度で1~3日、同4,000円で3~14日くらい。
同時に、それぞれの手段で配送料がいくらになるかも聞いておきます。もちろん自分の居住地(配送先)も添えて。「箱サイズによって変わる」と当たり前のことを聞き返されたら、最小ロットや予算を踏まえた上で「○個○万円を注文した場合」の「過去実績で近いケースでいいので」と伝えましょう。
支払金額に、その他のコストがかかるかも聞いておきます。ほとんどの場合は、商品代、検疫証明書代、配送料のみです。関税や消費税が発生することもありますがそれは日本に入ってきてからなので業者さんとは関係ありません。
今回、最初ビックリ価格だったので配送方法の交渉をしました。
次にリードタイム。納期のことです。発注してから発送するまでにかかる日数。さらにいうと、発注、支払い、梱包、発送、到着までの業者さん側のすべてのスケジュールを確認しておきます。特に重要なのが、支払のタイミングです。大抵の場合は支払いしてから発送準備となるため、ちゃんと届くまでドキドキするというお楽しみタイムが待っています……。
最後に支払い方法の確認。国際送金は基本的に国家が目を光らせているので国内ほどカンタンにはいきません。最もカンタンで普及しているのがPaypalで、その次にPaypal同様カンタンで手数料も安いWiseがおすすめ。ロシア制裁で有名になったSWIFTの口座や、外国の銀行の口座への送金もPaypalやWiseで対応可能です。まずはPaypalやWiseで直接送金可能かを、次に振込先口座を聞いてPaypalかWiseで送金可能かを確認。どうしても難しければ地元の銀行窓口に相談するという手段もあるかも。業者さんによっては日本の銀行口座に対応しているところもあります。
はるばる海を渡って日本にやってくる多肉たちは、狭い箱の中で過酷な環境に耐えなければいけません。であれば、何もなくてもやばい季節である真夏や真冬を避けたほうが良いのは当然のこと。今回はやり取りしていたのが8月だったので、実際のオーダーは9月以降にすることを確認しました。
細かいことでも気になったら商品内容についても確認しておきます。ただ「自社で作ったオリジナルハイブリッド」でもない限り、品種の由来は細かくトラッキングできないことがほとんどです。
実際にオーダーを進めます。最後に見積もりしてから1ヶ月くらい経っているので金額の確認をして支払いをします。初めての国際送金なので本当にうまくいくかどうかわかりません。最初は最低限の金額で送金のテストをしたほうが良いかとも思いましたが、どっちみち失敗したら失うお金なのでえいや!と飛んでみることに。これが「10万円をドブに捨てる覚悟」ですね。
次に、実際にWISEで送金する際のやりかたの記録です。金額はサンプルですが、1,000ドル支払うのに約13万円の支払いになりました。
当初の予定通りだったら9月30日ごろには発送しているはずでは? 3日ほど過ぎたのでツツきます。3日間不安を抱えたまま黙っていたのかって? いや実は全く気にかけていませんでした(笑)。このくらいおおらかな気持ちが必要なのかもしれません。
さらに3日経ったけど発送連絡がないのでツツきます。EMSの追跡番号さえもらえれば安心できるのでツツきますが、ゲットできたのはさらに3日後。
EMS番号があると細かい状況がトラッキングできるので毎日楽しくチェックできます。航空便なので中国から日本への移動はおどろくほど一瞬で、時間がかかるのは出国前と入国後に2回ある「検疫」。詳しい状況はわかりませんが、1つ1つ箱を開けて中身をチェックしているんだそうです。込み合う時期はここに1週間以上かかることもあります。
支払いもしたし後は受け取りを待つだけ……というわけにはいきません。海外からものを買うときは、日本の税関に「関税」と「消費税」を払う必要があります。概算で商品代金の10%程度。
しかもEMSの場合は、それが着払いになります。EMSを届けてくれるのは郵便局で、郵便局の着払いは今のところ現金にしか対応していません。ちゃんと現金を持っておかないと料金を払えず追い返すことになってしまいます(誰ですか本当に追い返した人は)(すみません)。
お待ちかねの小包が届きました。初回オーダーは合計100苗ほどでしたが、箱サイズは宅急便の80サイズくらいでかわいいものです。育苗トレイに並べると、広げても3箱くらい。「うん、大したことないな」と変な自信をつけてしまったことが後の悲劇につながると、このときの僕はまだ知らない……(テラスが育苗トレイと多肉であふれかえるという)。
オマケとして、「お金をドブに捨てる覚悟」と書いたけど、本当にドブに捨てるのは嫌なので、それを全力で回避するためのヒントをメモ書きしておきます。ちなみにこうした細かいことを確認するのは、入金する直前が最も効果的です。
そもそもその生産者さんは実在するのか? 取引をする前に、どんな生産能力がある業者さんなのか十分に確認するというのはビジネスの基本です。
- 生産者の名前をググってみる
- 生産者の所在地をGoogleMapで確認(ハウスがいくつあるか?)
- 公式のSNSの履歴をチェック(長期間やっているかや、SNSの写真はリストと一致しているかなど)
- 入金口座はその名前や所在地と一致するか
やり取りしている人はその農場のスタッフではなく、輸出を代行しているエージェントというケースが多いです。その人が正規のエージェントなのか、それになりすましている詐欺師なのかはよくよく見極める必要があります。
- やり取りしているメールのドメインが生産者と一致しているか?
- 過去の取引実績を教えてもらう(業者名は無理でも地域と規模は教えてくれるかも)
- 過去に送った多肉植物の梱包時の写真をもらう
- 過去に送ったEMSの追跡番号をいくつか聞いて到着しているか見る
- 多肉植物についてマニアックな質問をぶつけてみる (エージェントさんでもかなりディープな質問に答えてくれます)
- 価格交渉をしてみる(エージェントは自分の判断で値下げできないのでふつうは「農場に聞いてみます」と待たされる)
そもそも代金を支払っても送ってもらえるのか、送ってもらったとしてもどんなものが届くのかわかりません。失敗してもダメージが小さくなる努力は必要です。ついついあれもこれも欲しくなりますが、その欲は2回目まで抑えましょう。
- 初回は最小ロット以上をオーダーしない
- 初回は取引ボリューム(最小ロット)を少なくできないか交渉する
- 初回は前金と到着後の残金の2回に分けらえないか交渉する
- 発送・梱包の前に、確保した苗の状態を写真で送ってもらう
- 支払いは、その写真を送信してもらった後にできないか交渉する
- 振込は1回で全額送らず、少額をテストで送金してみる
さらにオマケとして、この大量の苗を何とかするヒントを2つ。
1つは物量の具体的なイメージ。ホームセンターでもよく見かけるこの育苗箱1枚に収まる苗の量は、ふつうサイズで24個(極小で50個、特大で12個)。たとえばふつうサイズの苗を300個買うと、育苗トレイが12枚は必要になります。で、育苗箱に直接用土を入れると1枚あたり6Lくらい入るので、必要な用土は12枚で72L。そのくらいの物量を覚悟してください。
もう1つは「福袋」という手段。共同購入でもいいかもしれません。多くの業者さんが1つの品種あたり10個といったロットになるので9個余るってことですよね。これを何とかするのにもっとも効率がいいのが「福袋」でした。もともと原価は安いので、原価+経費で十分オトクな福袋ができあがります。こうして「品種は問わないからお得な苗セットが欲しい」人がいてくれると、海外からのお取り寄せがとても低リスクでできる(10万円かかるとしても9万円は肩代わりしてもらえる)ので積極的に利用できますよね。実際に、ツイッタやインスタで呼びかけている方もときどき見かけます。
というわけで、PUKUBOOKでは見本用の苗を集めるため、それも国内で全然見たことない苗を手に入れるために、これからは海外お取り寄せを積極的に行っていこうと思います。そのたびに「福袋」を呼びかけさせていただくのでご協力いただけると幸いです。
あと、実はワタクシ、昔お仕事で「輸入販売業」に携わらせていただいたことがあって、今回の輸出入に関する基礎知識や海外業者さんとの交渉などはそのときの経験がちょっと活かされています(少し懐かしささえ覚え、楽しかったです)。今は完全に趣味でやっていますが、そうした経験がこうして記事となり、他の方のお役に立てるようでしたらそれにまさる喜びはありません。