『多肉植物図鑑 PUKUBOOK』は個人が趣味で運営しているので、ただ個人的に好きな多肉植物を好きなように集めて紹介するだけのサイトでございますが、ささやかながら使命感があって、その1つは「はっきり区別されずに曖昧なまま流通している品種たちは、できるだけきちんと区別できるようにしよう」というもの。特にそれが、メジャーなものよりもメジャーじゃないからあまりに気にされていないコたち、平たく言うと「テキトーに流されているコ」だったりすると無駄に火が付きます。
今回はまさにそんな「テキトーに流されているコ」に焦点を当てた、誰得特集です。
ひとまず「クラッスラ 紫蝶」でググってみます。
学名といっしょに掲載されているサイトやショップもあって、基本的に「クラッスラ クラバータ Crassula clavata」とされています。写真もこんな雰囲気です。
今度は「クラッスラ クラバータ」でググってみます。すると出てくるのはこんな雰囲気。
あれ? 違くないですか? 「クラバータ」の名の通り、葉っぱが棍棒のように丸まっていて葉っぱが平たい紫蝶とは違う雰囲気。同じ品種の環境違いと言うには違いすぎる気が(クラッスラって季節によってもあんまりカタチが変わりませんし)。いや「違うから園芸品種名として『紫蝶』として区別してるんでしょ」と言われればそうかも知れませんが。
今度は「Crassula Purple Butterfry」として海外のサイトを調べてみます。
先程の「クラバータ」っぽいむっちりしたものと「紫蝶」っぽい薄葉のものとが一緒に出てきますが、明確に「Purple Butterfry」と明記されているものはどっちかというと薄葉タイプ。学名も clavata とされていて、カッコも名前も日本と同じ状況。やっぱりこれで合ってるということかな。
ただ、いつも利用させてもらっている中国の生産者さんのカタログには「紫蝶 Crassula platyphylla」と書いてあったんですよね。そもそもの発端はコレです。「紫蝶はプラティフィラか」と思って調べてみたらどこもかしこも「クラバータ」と書いてある。これは「生産者さんが間違えた」ってことですよね、と。
でも、試しに「Crassula Platyphylla」で調べてみたら……。
「紫蝶」ってこっちじゃない?
ここで出てくるのが、もっとも信頼できるソースは植物学名データベースのGBIFです。PUKUBOOKを始めた頃、ここも含めて植物名DBといえば名前だけでほぼ情報皆無というところばっかりだったんですが、最近のGBIFは、生息地だけでなく正確な分布、現地で撮影されたハビタットな写真、論文に添付されたハーバリウム(実物標本)の画像が掲載されていることもあり、素人でもそれがどんな植物なのかわりとちゃんと知ることができます。すごいぜGBIF。
クラバータがこちら。
プラティフィラがこちら。
もともとどちらも「ヌディカウリス」の変種なので似ているし、同じようなフォルムの写真もいくつか確認できますが、それでもやっぱり、クラバータはむっちり葉っぱで、プラティフィラは平たい葉っぱです。
やっぱり「紫蝶」は「プラチフィラ」に似てますよね。
わからん(笑)
それはそのはず。ワタクシは植物学者でもなければ遺伝子解析をしたわけでもありませんので、どの植物個体がどの原種と同じなのかどうかを同定することはできません。GBIFの写真でもわかるように、同じ原種の中でも季節なのか個体なのかはわからないけどフォルムの違いがいくつかあります。紫蝶がクラバータの平たい個体の選抜という可能性も十分あります。
ただ、明確に「紫蝶=クラバータ」っていう証拠が見つからない限り、「クラバータ 紫蝶」っていう表記は止めておこうというのが結論です。PUKUBOOKは何が正しいかを特定する図鑑じゃなくて、いろんな可能性をすべて正しいものとして併記することを目指しています。海外のカタログとはいえ「紫蝶=プラティフィラ」という可能性も残っているので、「紫蝶」は「クラッスラ 紫蝶」とだけ書いたページに乗せて、クラバータとプラチフィラにリンクすることとさせていただきます。
といったことを、ふだん空いた時間にチマチマとやっていて、そのチマチマした情報のチリツモでこのPUKUBOOKは成り立っています。今はほとんど需要がないこの情報も、いつかなにかの役に立てばと願ってやみません。