多肉植物図鑑の1人編集長として日々いろんな情報をまとめて掲載している中で「あれとこれって結局同じもの(同種)だよな」とわかることがあります。これっていつも答えが明確にあるわけでもなく、ヒントすら落ちていないことも多いのに、経験と知識の蓄積からある種の閃きのように結びついて「間違いない!」と思っちゃったりするちょっとした「アハ体験」。まるでゲームのステージクリアしたかのような爽快感もあるので勝手ながら「同定ゲーム」と名付けてX(旧Twitter)にポストしています。
今回はそんな「同定ゲーム」の成果をまとめた回。
自分一人しかやってないゲームの成果発表という誰得情報ですが、「日々こんなことやってます」という報告と、「多肉植物業界のあるある」として楽しんでいたければ幸いです。
まとめてみたらこれがいちばん多いパターンっぽい。最近は多肉植物量産の中心地が中国になってきて(新品種はまだまだ韓国が主力ですね)、いろんな業者さんが中国から輸入して販売しているんですが、やっかいなのは中国で流通している名前をそのまんま日本でも使っているパターンです。
中国はお国のルールとして外国語も「中国語名」にしないとダメっていうルールがあるらしく、ありとあらゆる品種名が1回「中国名=漢字」に置き換えられます。で、たまたま日本には漢字があるのでそれがほぼそのまま入ってきて、まるで新種のような顔をしています。
さらにややこしいのは、その漢字名のままでは理解できない欧米の業者さんが、漢字名をさらに英語に翻訳して(もしくは中国の業者さんが機械翻訳で英語にして)流通させるもんだから、また新種のような名前が生成されるという現象。
多くはググると「元の品種名と漢字名」や「漢字名と新しい翻訳名」が併記されているサイトが見つかるんですが、そうでもなければ頼りになるのはインスピレーション。最近はそのパターンがいくつかわかってきて、謎解き力が向上している気がします(笑)
もっとも顕著な例がこの「月影」。もともとエレガンスの一般的な日本語名として「月影」と呼ばれていますが、中国にも「月影」の名前で導入。それを「月影=elegans」としてリリースしてくれればいいのに「月影=moon shadow」としちゃうのが機械翻訳の怖いところ。
問題は「Moon Shadow」という品種は以前からあるってことなんですよね。2018年、イギリス生まれのメキシカンジャイアント系ハイブリッドです。これ、手に入らないかな……。
同様に、エレガンスアルバのことを中国では「白月影」と言いますが、それを英訳した「ホワイトムーンシャドウ」という品種名を見かけたりします。
「厚葉のモンロー E. 'Thick Monroe' 」です。これを「シックモンロー」と読むか「チックモンロー」と読むかは大した問題ではありません。
モンローは中国では「夢露」と呼ばれています※。厚葉のモンローはというと「厚夢露」。それを短くして「厚夢」。中国語読みすると「ホウメン E. 'Houmeng' 」。あ、なるほどそういうことね、と。
※夢は実際には日本にない漢字(梵の下が夕になってる字「梦」)。中国語読みで「モンロー」に近い「メンルー」という音を当てたもので、マリリンモンローも同じ漢字。
さらにそれを英訳して「Thick Dream」とか「Wealth Dream」なんて名前も見かけます。
ちょ!待っ!音を当てた漢字を意訳すんな!ってマジで(笑)
同じ理屈でいうと最近「〇〇ドリーム」っていう名前が多い気がしますが、これの多くはモンロー系ハイブリッド(のなにかの同種)ってことかもしれません。恐ろしくて調べる気になりませんが……(汗)
「ハニ」は調べてみたら「ハニー honey」ではないようで、中国語で「哈尼」と呼ばれているところまでは特定(哈尼の意味や由来ははっきりわかりませんでした)。ただそれだけでなくこの種はより正確には「白胖子哈尼」と呼ばれているっぽいんですよね。「胖子」は「太っている(デブ)」みたいな意味らしく(それ自体にはたぶん「厚葉」や「むっちり」といった程度で、悪意ある意味はないと思います)。
というわけで、ホワイトハニーやホワイトファット、あるいはファッティホワイトなどなどいろんなバリエーションある翻訳のされ方をされてるコたちはみんな同種ということで。
「愛=Love」「心=Heart」「寿=ハオルチア レツーサ」というわけで「愛心寿」は「ラブハート」の同種ってことですよね。これに気づいたのは完全にインスピレーション。たまたま最近入手して写真撮ったから覚えていた「ラブハート」の顔が「愛心寿」と同じだったので。こういうのがゲームっぽくてたのしいんですよね(笑)
「ダイフク DAIFUKU」や「雪媚娘」で流通しているエケベリアは、たぶん全部「雪魅大福」の同種。「雪魅大福」が海外に渡ったときにかわいそうな訳され方をされたっぽいです(汗)
アエオニウムは中国で人気があるようで、中国生まれの新品種もたくさんあります。話をややこしくするのは「もともと中国語しかない」ため、人それぞれいろんなバリエーションで翻訳された後に、それを収束させる元ネタがないってこと。
この品種がもともと中国由来かどうかは定かではありませんが、「舞天姫」という中国名に対し、Dancing Beauty、 Dancing Fairy、Dancing Fairy Beautiful、Dancing Girl、Dancing Tianji,(中途半端な訳)、 Sky Dancer(舞天だけになってる?)などなど千差万別。もちろんどれも同種と特定されたわけじゃないのでもしかしたら別種かもしれないけど、もう考えるのがイヤになりそうです(笑)
より正しく伝えようとした結果、間違って伝わるという不幸な事故もあるようです。
エレガンスの正式な学名は「Echeveria elegans Rose」と書くんですが、最後のRoseは命名者の名前です。Roseさんです。つまりエレガンスのタネを買ってきたら「Echeveria elegans Rose」って書いてあって、そのままの名前で苗を販売したら「エレガンスから出た『ローズ』っていう園芸品種ね」と誤解されたような感じ。
この命名者名を品種名と誤解して流通した園芸品種名って結構あるような気がします。例えば……
学名について詳しくは以下のコラムで。
#先の「月影≠Moon Shadow」問題と合体して「@Moon Shadow Rose」という「あぁ、そうきたか」的な名前にも出会いましたが、これはこれでエレガンスと同種とは言い切れないような顔をしていて、もう何が何やら……。
基本的にはぜんぶ同じものっぽいです。もともとメキシコローズはエレガンスの「あだ名」のようなものだったのが、アジアに渡って「特定個体」を指すようになっていき、それが「シラ」や「シナ」と呼ばれるようになったらしい。
ちなみに「シラ」は「エレガンスより葉っぱが厚くて角ばっていて密になるセレクション」と書いているところもあるので微妙に違うらしい。現在、日本で流通している「メキシコローズ」も「シラ」と同種っぽい。
たしかに幹の質感や従事に積み重なった葉っぱはエケベリアと言うよりクラッスラ。韓国でごっちゃにされているっぽい。
別種だと思っていたのにまったく区別できなくなってしまった例。ちなみに「環境が違うのに同じ顔」はたまたま同じであって同種とは限りません。あくまで同じ環境に置く必要があります。それもいくつかの環境で試すと尚良し。
これは、園芸品種名の命名規則や種苗法などのお硬い系ルールでは基本的に「はっきり区別できる特徴がなければ新種と認めない=見た目に区別できなかったら同種」というルールがあるので、たとえルーツが違う品種でも見た目で区別できなければ同種扱いでいいんじゃないかという考え方に基づいています。ただあくまでPUKUBOOKでは「同種扱い」にするだけで、同種と特定することはありません。そういう図鑑ではありませんので……。
ホワイトラバーは最初違うコだと思っていたんですよ。でも管理してたらまったく区別できなくなってしまったので……。
この2種も最初は違う顔をしていたんですが、管理してたらまったく区別できなくなってしまいました。「ほら同じでしょ」っていう証拠写真が掲載できていないのは、区別できなくなってどっちがどっちか特定できなくなったからです……(全部札落ち扱いせざるをえなくなっちゃいました)。
この2種も同じ顔になるんじゃないかとヒヤヒヤしながら見守っています……。
最初は「プリドニス」で入手したコですが、バンプがあるし変だなーと思って、後からググったら「クリスマスバンプ」という名前のコとそっくりだと気づきました。入手元に確認すると「同じっす」と軽く答えてくれましたが、そんな気軽に同定していいものとは僕は思っていません(汗)
洛神とミウルは同じものというウワサをキャッチ。とすると、ミウルが中国に渡って洛神になったのかと。
ただ、名前が似ている「ロココ」ももしかしたら同じじゃないかと思ってるんですよね。証拠不足で掴みきれません。
センセーションのことを海外で「Echeveria Sensation Amabelli」と呼んでるんですよね。もしかして……と。ぜんぜん違うじゃん!と思うかもしれませんが、これは環境がまったく違うからで、センセーションもググるとアマビレっぽい雰囲気があるんですよ。アマビレを手に入れて同じ環境で鍛えたら答えが出るかもしれません。
図鑑を編集していることもありますが、お取り寄せした苗のお裾分け販売をしているのでますます、これとあれは同じでは? ということを念入りに調べるようになりました。込み入った調査方法や、経験や勘のようなインスピレーションが必要だったケースもありますが、中には「ちょっとググればわかるやん」というものも多いので、販売業者のみなさま、一度でいいからググっていただけませんかねーと願ってやみません(汗)
まぁ、僕の仕事、いや「同定ゲームのお題」が増えるから良いんですけどね。