実生ライフ楽しんでいますか?!
と「なにをとつぜん」な書き出しでスタートした訳は、2年前にアガベの実生についてコラムを書かせていただいていたから。おかげさまでPUKUBOOKコラムの中ではわりとご利用頻度の高い記事となっていることもあって、今回は それにあやかろうと エケベリアにスポットを当ててその復習と、そんな記事も実生も知らないという方に改めて知って頂く機会とさせていただければと思っています。
タネから育てる方法を園芸界では「実生(みしょう)」と言います。英語だと一番近い用語は seedling ※。苗を買いに行ってもたまにラベルに「実生」と書いてあったりしますが「タネから育ててますよ。葉挿しやカキコじゃないよ」という意味です。
※ seedling は厳密に言うと「種から発芽した若い苗」のこと。日本語の「実生」も本来そういう意味です。germination(植物生態学用語で「発芽」)か seeding(園芸用語で「種まき」)という単語でググったほうがヒットすることもあります。
エケベリアはアガベよりもずっと手軽に入手することができます。わざわざ実生するメリットや魅力はどこにあるのでしょうか?
タネは多いと100個単位で売っています。ワンシーズンでゼロから100苗以上ゲットできるということ。この生産量は葉挿しではなかなか真似できません。
国内ではほぼ流通していない新種やレア種、それにカンテといった流通量の少ない高級種でも、同じくらいの手間でゲットすることができます。それが目的なら大量にゲットできる必要はありませんが、どうせならできるだけたくさん育ててメルカリでおすそ分けしちゃいましょう。
品種によっては、実生は葉挿しと違って個体差が出ることがあります。1つ1つ違うその個性を楽しむことができます。
さらなる上級者テクニックとしてエケベリアのタネを自分でつくることができます。それも違う品種をかけ合わせる「交配」をするとそれはもう自分だけのオリジナル品種。誰も見たこともないステキなコにも出会えるかもしれません。
アガベ特集のときに「特にカンタンでおすすめ」と書いていましたが、ということはエケベリアはもう少しだけ難しくなります。難しいと言うかちゃんとケアが必要で、僕みたいなズボラさんは失敗するリスクが高いということ。
その一番の要因はこのタネ。むっちゃ小さいです。ぱっと見だと粉にしか見えないし、吹いたら飛んでいきますし、撒いてもどこに撒いたかわからなくなります。
なのでポイントは、①用土は特に細かいものを用意する ②撒いたあとは上から水をかけない(腰水) ③十分大きくなるまで水を切らさない ④薬品はできるだけ使わないといったところです。
発芽に適した温度はアガベと同様に 20℃~25℃ なので、 3月~4月か、9月~10月くらいがベストシーズンです。(なぜ8月にこの記事を書いたのかというと、海外からタネをお取り寄せするのに1ヶ月くらいかかるからです。今から注文するとちょうどベストシーズン!)
アガベと違って先に水に浸したりしません(見失うから)。密閉ガラス瓶メソッドも、タネがどこにいくかわからないのと密閉に適した育成期間がアガベの半分くらいなのであまりオススメできません。今回は腰水プラポットメソッド一択で進めていきます。
小さな苗はとても繊細なので過酷な環境は絶対NG。直射日光の当たらない明るい日陰で風通しのいいところがちょうどよく、もちろん屋内でもOKです。鉢上げできるサイズになってきたら十分な日差しが必要で、一人前の大きさになったら直射日光を……と段階的に環境を厳しくしていく感じです。
めんどくさいな―という人にオススメなのが屋内のLED環境です。本格的なLED機器を導入しなくても、ベビーリーフ用のLED機器で数鉢分だけの環境を作って、はみ出るようになったら外に移動というオペレーションでも良さそうです。
用土は、撒いたタネが発芽困難な奥の方まで入って行っちゃわないようにできるだけ目の細かい用土を選ぶことさえ気をつけていれば、基本的に何でもOKです。とはいえオススメは2パターンで、①鉢底石、培養土、赤玉か鹿沼の細粒の三層構造 ②種まき葉挿し専用土。
用土を用意したら大きなトレイに並べて上から十分に大量の熱湯をかけて冷めるまでラップを被せて蒸らしておきます。タネも薬品で滅菌しておくといいという書物も見かけますが、薬品は苗を痛めるリスクも高い※ ので個人的には不要だと思います。
※マジで、薬品を撒いたら次の日に芽が全部溶けてたといったこともあります。
冷めたらタネまきOKです。水は交換してもそのままでもOK。
タネは吹いたら飛んでいくので開封は特に慎重に。大抵は紙に包まれているので、それをそーっと開いたら、対角線で半分に折って、とんとんしながら少しずつできるだけ均等になるように用土の上に撒いていきます。どこに撒いたかは絶望的にわかりません。芽が出てきたらその結果がわかります。
タネが発芽するまでは、水面が用土の高さの8割くらいまでひたひたに水を入れてそれをキープします。十分に発芽したら半分から2割くらいまで減らしていきますが、基本的には苗が十分な大きさになるまでは腰水をキープして水を切らさないようにします。
蒸れやカビのリスクがありますので、風通しのいいところに置くのはもちろん、扇風機やサーキュレータを充てておくと安心です。もしカビが発生したらその部分だけ丁寧に取り除きます。殺菌剤などの薬品はカビだけでなく苗をやっつけてしまうリスクがあるのでおすすめできません。
日が当たる必要はないので、生活できる明るさの部屋であればOK。
本葉が出て1~2cmくらいの大きさになったら別の鉢に植え替えしてもOKです。もちろんもっと大きくなってからでもかまいません。大きくなるほど植え替え時の失敗のリスクが軽減されますが、大きな苗の近くにちょっと遅れて発芽したコは大きくなれないので、大きいコにはできるだけ早く巣立ちしていただいたほうが育ちがよくなります。
鉢上げできるようなサイズになったら腰水を切り上げてもOKですが、腰水を続けたほうが育ちはいいです。
早いと半年程度でいっちょ前の大きさになってくれます。市販されているサイズになるには1年~2年といったところでしょうか。
サンプル数が1(我が家だけ)なので本当によくあるかどうかはわかりませんが、実際に経験したありがちな失敗をお伝えしておきます。
本当にやります(笑)。種をまこうとしてそーっと鉢に近づけていったらなにかの拍子で紙が跳ねて吹き飛んだといったこともあります。くしゃみしたとかじゃないのにですよ。でも諦めないで。しばらくすると近くの鉢から芽が出てきたりします。問題は大きくなるまでどの品種かわからなくなることですね。
もちろんカビは要注意ですが、経験上、エケベリアの実生でカビに悩まされたことはありません(アガベと違ってタネが小さいので元々カビ菌が付着しているリスクが小さいのかなーと思っています)。どちらかと言うと怖いのはカビ対策の薬品で、カビ対策のつもりでまいた薬品でせっかく出てきた芽を全部とかしたことがあります。
生まれたての芽は、当たり前ですがどんな植物よりも繊細です。1日の水切れ、数時間の直射日光で枯れたり焦げたりするリスクがあります。十分な大きさになる数ヶ月の間は毎日様子を見てケアしてあげてください。特に数日家を開けるなんてときが要注意です(つまり僕がだいたいそういうタイミングで枯らすということです)。
定番の、あるいはよく利用するタネショップを紹介します。
seed stock
安心安全の国内の多肉植物のタネ専門店。国内なので短納期。シーズンに入ってから注文しても間に合います。発芽報告や実生方法を紹介するLABORATORYも要チェック。
Kohres ケーレス
みんな知っているドイツの多肉植物のタネ専門店。種類が多く、地域変種まで厳密に学名で分類管理されていて信頼も厚いショップ。国内で流通している実生苗の多くはここのタネを利用しているんじゃないかと思います。ロットが大きいのと、ペイパルでの支払い方法がわかりにくいのが難点……。
実は個人的に増えすぎる実生を敬遠していたという事情があって(なにが「楽しんでますか?」だと)今回の特集でも実生している品種がごく限られていますが、最近その環境を大きく変えたこともあって来シーズンはもっと積極的に実生していこうかなと思っています。
ここで紹介した手法はタネが小さい系のセダムやダドレアなどにもほぼそのまま応用できますし、まだまだ国内で見たことのない品種もありますので、レアタネをゲットして挑戦していきたいと思います。