前回コラムの通り「エリオクエストさんにケープバルブを教わりに行く」ためだけにレンタカーで高知にひとっ走りしてきましたが、いやいやせっかく高知に行ったんだから他にも行くべきところはあるだろう、と。ちょうど朝ドラ『らんまん』で盛り上がっているこのタイミングで、その主人公である牧野富太郎さんの名を冠した植物園「牧野植物園」に行ってきたのでレポートします。
結論から言うと、個人的な 「日本の植物園ランキング」 堂々の1位間違いなし でした。
牧野富太郎って誰?という方は下記コラムで復習を。
その名の通り、植物学者牧野富太郎さんの功績を称えるために地元の高知市の街中に造営された県立の植物園です。開園は牧野さんが亡くなった翌年の1958年。五台山という、ちょっとした山の上にあって、平地に造営されることが多いほかの植物園とは一線を画すロケーション。さらにシンボルとなっている「牧野富太郎記念館」は1999年に新設された施設、2008年に「50周年記念庭園」、2010年には温室をリニューアルと、歴史があるだけでなく、近年どんどん新しくなっている最新の植物園でもあります。
最初は「せっかく高知に来たんだからついでに……」程度に思っていたのに、訪れてみたらどれだけ失礼だったのか思い知らされました。個人的な「日本の植物園ランキング」は堂々1位で間違いない。
では具体的に、どういうところがすごいのか、個人的に感じたポイントを挙げてみます。
歩いてみたらわかるのが、起伏の激しさ。多くの植物園は平地にあって歩きやすいのに、ここ牧野植物園はまるで「山道」。隣のエリアに移動するのに坂、階段、ときどき道なき道を歩かされるので、絶対にヒールなんてNG。スニーカーどころかトレッキングシューズのほうが良いかもしれません。
けど、それって、日本の植物を展示するのにはむちゃくちゃリアルで適した環境なんですよね。地形が入り組んでいるので、林道、小川、急斜面、沼、湿地などなどいろんな環境を作ることができ、いろんな植生の植物を植えることができます。こんなに多様な生態系の植物を、現地に近い環境で鑑賞できる植物園を僕は他に知りません。
牧野さん自身が生前に「植物園を造るなら五台山がええ」とおっしゃったそうで、なるほど確かに、こんな多彩な環境を作るのに適していることを見通していたんでしょうね。実際に植物が生きる環境をその足でたくさん見てきた牧野さんらしい大胆な発想です。
正直言うと、植物園って野暮ったいところが多いです。植物や庭園がメインコンテンツなのはわかります。とはいえ、建築&デザイン好きな僕としてはちょっと物足りないんですよね。
そこへ登場するこの「牧野富太郎記念館」。そもそも本当に「ミュージアム」だということもあるかもしれませんが、なんと言おうとこんなに美しい建築が併設されている植物園は類を見ません(もちろん新宿御苑があるけど、また別格なので比べちゃダメかなと)。それもそのはず、著名な建築家である内藤廣先生による設計だとか。
#ちなみに以前のコラムでちらっと訪れていた「練馬区立牧野記念庭園」も内藤先生の設計です。高知駅もそうなんですね。
記念館の中に造営された庭園も、いわゆる日本庭園とは趣が違って、着飾らない素朴で自然なのに、ちゃんと美しさ感じるレイアウトで、ここも見応えあります。テラス席から水辺の風景も見えるレストランもあって、抜群のコストパフォーマンスで優雅なひとときを過ごすことができます。
ここ、ほんとに植物園ですか?
いえいえ、植物園です。もちろん「植物園 No.1」と言っているのは、建築がすごいからではありません。最も地味で、最も植物園として大切なこと。それは、展示している植物の、ガイド、解説、キュレーションがちゃんとしているか?ということです。
正門から入っていくと一番最初に目につくのは、地元高知の植物たち。驚くべきはその「名札」の量。それに、ちゃんと「咲いてます」で開花をお知らせしているし、主要な植物にはしっかりとした解説ボードもあります。触ってOKのコーナーもあるし、朝ドラ『らんまん』関連の企画展示もあります。
ただでさえ起伏の激しい広い園内を、どんだけ密に、細やかに多様な植物を植えて、維持管理して、それをお客さんに見てもらって理解してもらおうと努めているのか。その努力にただただ脱帽するしかありません。
多肉植物LOVERとしてはやはり温室は外せません。牧野植物園の温室は南門から入ってすぐのところ。2010年にリニューアルしていて新宿御苑と並ぶ最新施設。写真からも解かるようにむちゃくちゃ高さがあり、外の展示と同じように高低差を活かした順路でジャングル体験のような楽しさがあります。広さ自体は新宿御苑よりちょっと広いくらいでゆっくり観て30~40分くらいでしょうか。
定番から、定番と思わせておいてちょっと珍しい品種まで。どんな植物園に行っても新しい出会いがあります。
こちらは温室ではなく屋外の「触ってみよう」コーナー。たしかにモケモケの植物は触ってみたくなりますよね。
温室の近く。外から見えるところに地植えされたケルチョベイ。
温室入口近くにある乾燥地帯の植物コーナー。デカいです。天井いっぱいにまで生長したグロボーザとホワイトゴースト。こんなに大きく生長しているのを観たのは初めて。
その足元に根付く小型の多肉植物。定番種ですが、定番種こそきちんと植物園で管理して欲しいありがた案件ですよね。
サボテンたち。数は少ないけどサイズも大きく見応えあります。
サンセベリアが種類豊富にたくさん展示されていました。見たことない品種も。
温室は蘭と熱帯植物が8割くらいで多肉植物はちょっと少なめ。その熱帯植物コーナーにはチランジアやフリーセアがいたるところに。ネオゲレリアなどのタンクブロメリアもよく見かけました。
牧野植物園は高知市の中心部からちょっと離れた五台山の上にあって、結構な山道を登るので自家用車またはバスがオススメです。駐車場は200台あって無料。バスは600円で1時間に1本。入場料は大人730円で高校生まで無料です。
実は当初は開園(9:00AM)から小一時間で次の目的地なんて計画を立てていたんですが、気づいたらランチタイムを過ぎていて(滞在時間4時間弱)次の目的地を完全スルーする羽目に。もちろん撮ってきた写真やレポートしたいことはもっともっとあるのですが、それは次回「高知編 後編」でお伝えします。
植物園の良いところは季節によってガラリとその表情を変えること。これだけの植物と環境が用意された植物園ならなおさらです。また別の季節に訪れてみたいなーと思いました。