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PUKUBOOK Succulent picture book

2023.5.26 「エケベリア カンテ」の育て方――「女王」と言わしめるその美しさに、誰でも出会うことができる究極のメソッド

「エケベリアの女王」の名をほしいままにする美しさ。名前はよく聞くし美しさも間違いないのですが、その姿を実際に見かけることがほとんどありません。その姿というか、その「真の姿」を。単に流通が少ないというだけではなく、美しい姿に作り込むのが難しいということ。カンテを見かけることはあっても、こんな姿をしていない、と。

今回はそんなカンテの育て方……というよりも、その「真の姿」を見る方法。たまたまうまく行っただけかもしれませんが、おそらく再現性の高い方法なので記録として残しておきます。参考にしていただければ幸いです。

カンテとは

エケベリア カンテ
植物名カンテ
分類ベンケイソウ科センペルビヴム亜科エケベリア属
学名Echeveria cante Glass & Mend.-Garc. 1997
原産地メキシコ サカテカス州 ソンブレレテ付近

およそ植物とは思えない、マットなシルバーブルーからピンクのグラデーション。どんな遺伝子操作で造られたアーティファクトかと思いきや、なんと自然にそのままの姿で存在する「原種」です。

カンテの自生地での様子(by alvaro_aguilar on GBIF)
こんな炎天下の岩場に……(by karelon GBIF)

お住まいはメキシコ中部の山間部。高い山の大きな岩がゴロゴロしているその隙間に根を張り白い葉っぱを拡げています。基本的に木陰を好むエケベリアが多い中、日差しを遮るものが少ない開けたところを選ぶ度胸※。雨季は草が生えてくる環境ですが、乾季は白い石灰岩だけになるのでカモフラ効果のあるカラー。木立ちする性質がありますが地面から背を高く伸ばしたいわけじゃなく、岩の隙間の奥に溜まっている土から岩の上までその葉っぱを伸ばしたいのかも。……といったことが、お写真から読み取れます(こういうの、育て方のヒントですよ!)。

※エケベリアに詳しい方にお聞きしましたが「さすがに一日中日があたる環境ではエケベリアは生息できない」「写真の環境でも山の斜面などで時間帯によって影になるのではないか」とのご指摘をいただきました。ただ、日本とメキシコではそもそも日照量が違うので(日本人とメキシコ先住民のネイティブな肌の色を比較するとわかりやすい)それに合わせた日照時間を考えるのは重要とのこと。

ちなみに「カンテ」という名はラテン語ではなく、その現地の先住民チチメカ族の呼び名が由来になっていて、「命を与える水」という意味の言葉だそうです。

育て方の基本

まずは基本です。

日当たり

とにかく日当たりの良いところへ。現地の写真で見ると、日差しを遮るものがほぼありません。時間帯によって影になるとしてもピーク時の日光の強さは日本よりもずっと強そう。日本で育成する場合は基本的に常にフルマックスで日に当てに行きましょう。(夏の昼間の炎天下はダメです。詳しくは「夏越し」の項目で)。。

水やり

一般的なエケベリアよりも水が好きです。水を切らすとすぐに外葉が枯れ込んできます。なので多肉植物と言うよりも観葉植物のように「乾いたらすぐにたっぷり」という水やりサイクルを意識したほうが良さそう。根腐れやジュレが心配だって? 逆です。これだけ水をやってもジュレない環境を作ってください。用土を工夫するとか(後述)。カンテは幹立ちしてくるので、あえて立たせて株元をスカスカにしておくとか。

外葉がチリチリしているカンテ。これがトレードマークとも言えます

なお、水やりは上からかけたりせずに、株は避けて根もとに直接注ぐようにします。ドバドバかけても大丈夫だよという方もいらっしゃいますし、たしかに基本的に水は弾くし水をかけたくらいでは粉は剥げませんが、長期的に少しずつ剥がれてくる水が溜まったところがムラになるように思います(冬越しに掲載した写真がまさにそれ)。少なくとも、今回作ったカンテに上から水をかける勇気はありません。

鉢のサイズと用土

カンテはむちゃくちゃ大きくなります。鉢のサイズに合わせて大きくなるとも言えます。お手元の株のサイズにもよりますが、ロゼットの直径が7cm程度なら12cm、ロゼットの直径が12cmなら18cm程度……とふたまわりくらい大きな鉢がオススメです。用土は多肉植物用ならなんでもOKですが、強いて言えば水持ちの良さそうなもの(腐葉土、ピートモス、バーミキュライトあたりを足してもいいかも)。表面は石英質の硬い化粧石(川砂利系の化粧石とか)が相性良さそうです。

直径20cmのロゼットに11cmのポット。今のところ生長に支障はないけど、これ以上大きくならないかもしれないし、水やりの頻度が多くなりがちなのでもう少し大きい鉢が理想かな
夏越し
メキシコ サカテカス州の平年の気温(weatherspark.com)
降水量/薄く重ねているのが東京の新宿(weatherspark.com)

ふるさとのメキシコ サカテカス州の天気を調べると、夏の気温は5月がピークで最高30℃くらい。そのあと6月~9月にかけてが雨季で天気が悪いのか気温があまり上がらず、その3ヶ月間はだいたい最高26℃~最低8℃くらい。雨季とはいえ降水量は50~120mm程度で、東京だと最も雨が少ない11月~2月と同程度。ということを踏まえてポイントをまとめると、

- 最高気温が30度を超える日までは炎天下でOK
- 30度を超えてきたら昼間の直射日光が当たらない明るいところに退避
- そこが28度くらいだとするとカンテにとっては「雨季」なので水やりは欠かさない。3日~7日に1回、土が乾燥したら、朝か夕方にしっかり水やりをする。

と言ったところでしょうか。実際に夏のカンテが痛む原因は、過熱や蒸れによるジュレと言うよりも水不足で健康を損ねることに起因することが多いように思います。他のエケベリアと違ってかなり水が好きで、日差しに強いという認識が良さそうです。

もちろん実際にカンテがお住まいの山間部とは気象条件は異なるはずです。ちょうど新宿と高尾山の天気が違うように。そこは新宿と高尾山の違いを踏まえて、想像で補えばいいんじゃないかなと思っています。

梅雨前にカットして風通しの良い日陰で保管すれば9月には根が出てくれるので、ちょうどいいタイミングで植え直すことが出来ます

以前のコラムで紹介しましたが、どうしても心配な場合は梅雨前にカットしちゃうというのも夏越しとして有効なメソッドです。

冬越し

冬は現地でも最低-5℃くらいになるようで(山の上ならさらに寒いかな)日本でも寒冷地や局地的な寒波でなければ屋外越冬で問題ありません。ただ、現地で最も寒い12月~2月でも降水量はゼロにならず2月にちょっと恵みの雨があるようです。ということを踏まえると、

- -5℃を下回らないなら屋外でOK
- 冬の間も完全断水はせず、1~2週間に1回の水やりを継続する

でしょうか。冬のカンテは確かに、言うほど休眠せず水やりしていると結構生長してくれます。逆に油断して水を切らすと外葉がチリチリと枯れ込んできます。これも健康な代謝の1つでカンテらしさなのかもしれませんが、ここで葉を枯らさずに春に持ち込むとどうなるのか……は未経験なので未知の世界です。

11月
12月 結構生長していますよね。ただ外葉がチリチリ枯れ込んできています

生長の記録

今までに長くお付き合いしたカンテは3株ほどありますが、その中で最も付き合いが長く、かつその生長の変化がダイナミックなコを時系列で追っていきます。ドキュメンタリーです。

救難信号から通常メソッドの2年

きっかけはメルカリでした。コメントで「うちでは管理しきれませんので……」と申し訳無さそうに出品されていたカンテ。確かに元気はなさそうですが、単に生長のきっかけが掴めず長期休眠している感じ。決してダメな株ではありません。せっかくなので引き取って挑戦してみることに。

21年3月末。メルカリで「うちでは管理しきれません」という救難信号が上がっていたので引き取ったコ
同日。植え込んだ初期状態。
21年10月。ひとまず夏を乗り切って「生きてます」といったところ
22年5月。うちに来て約1年。春を迎えぐっと生長しました。一般的にカンテとして流通販売されているのはこのくらいのイメージ

と言っても特別なことはしていません。特に手をかけることもせず、日当たりのいい場所に置いて時々水やりする程度。雑な管理でしたが夏の暑さや冬の寒さによく耐えて元気に回復してくれました。

22年6月。植え替え2回目すぐ
22年10月。今のodoropotへ植え替えしてすぐ。ここで子株を外しました。今思うとよくこんな状態の株を「鉢の見本」にしたよなぁ……
「強光線LEDライト」でブースト
2月24日 ラボに入れて1週間後ですが、10月から比較するとちゃんと大きくなってからのスタートだったことは報告しておきます

そして2年が経とうとしていた新年。我が家に最新鋭の秘密兵器がやってきます。「高輝度LED植物育成ライト」という。その一番の矢面に経ったのがこのカンテでした。

わかりにくくてすみませんが、ライトのフード先端から生長点までは12cmくらいしかなく、照度は16万Lxあります

LEDライトをエケベリアの栽培に使用している人(それをSNSでレポートしている人)はあまりいないので、どのくらいの照度がいいのか? と言ったことも手探り状態ですが、まずは限界まで強い光で試しました。ダメなら弱くしていけば……と。しかし太陽光の1.5~2倍もの光量に全然耐えるカンテ

22年1月15日。ラボに放り込まれた直後
22年2月19日。約1ヶ月。見違えるようなボリュームに生長

1日目から顕著に反応し、まずは枯れかけた下葉はしっかりと枯れ込み、それ以外の葉っぱは生長点を守るように急速に丸まっていきます。その後数日動きを見せず、次にすごい勢いで葉っぱを開き直し、中心から新しい葉っぱが出て大きく生長していきます。そのスピードは1日で十分わかるほど。すごいスピードです。

こうして、本来あまり生長しない冬の間に暖かい部屋でゴリゴリに生長させられたカンテ。ここまでの変化だけで十分爆発的な生長ですが、これがこのあとのさらなる劇的な変化の起爆剤になってくれた感があります。「生長ブースター」ですね。

22年2月19日。とりあえず取り出しました。強くうねった葉っぱが立ち上がり、内側に太くて厚い新葉が見えます
たっぷりの日差しとたっぷりの水で
22年3月8日。うねった外葉は枯れ込み始め、厚くストレートの葉が開くと同時に内側にキレイな球形の新葉が出てきました

外が暖かくなってきたのと、ラボで選手交代したいのもあり、とりあえず取り出して外管理に移行しました。ほぼ1日中日が当たる、日当たり抜群のポジションです。

23年3月12日。ゴリッゴリに「大人の顔つき」に生まれ変わったカンテ
23年4月。その後、屋外のなかでも日当たり最高のポジションに。LED下で出来たトガッた葉が開いて、中からもう少しマイルドな葉が出てきています

実はこのとき、水やりの間隔が長くなってしまい、せっかくの外葉が枯れ込み葉数が減ってしまいました。生長期の水切れはダメゼッタイ。油断大敵と教わりました。

23年5月。新葉がキレイに展開し、古い葉っぱはすべて落ち、色も白くなって美しく輝いているカンテ

LEDライト環境との違いははっきりしていて、LEDは強くうねった赤みの強い葉っぱ、太陽光はフラットで白い葉っぱになりました。密度はLEDが圧倒的。もちろん光だけでなく、気温や水やりも関連しているかもしれません。ただこの結果だけ見ると、LEDは強烈な光でストレスを与えながら密で強い株を作り、太陽光はそれに比べるとマイルドで健康的な株を作るイメージ。

ここまで育て上げるには……その道筋も見えてきた気がします(Yongyus from Los Angeles, USA / wikipedia commons)

この写真はWikipediaに掲載されているものですが、もしかしたら日本の屋外管理では光が足りなくてこんな密密葉っぱのカンテには生長しないかもしれません。今回バキバキなカンテの片鱗を引き出してくれたLEDを使っていたら、こんな密密カンテにできそうな気がしてきます……。

ちなみに10月にカキ採った片割れはちゃんと元気にしています。次なる「女王」を夢見て……。

まとめ

改めてまとめます。カンテの育て方の極意とは……

- とにかく異常なくらい光が好き!
- 水切れダメ絶対! 水をやり続けてもジュレない環境を作れ
- 冬は休眠させず「高輝度LED植物育成ライト」でブーストせよ!

もちろんそれぞれのご家庭の環境は違いますので同じ様にやって同じように行くことを保証するものではありませんが、参考にしていただければ幸いです!

エケベリア カンテ Echeveria cante
「エケベリアの女王」と呼ばれるほどに、その美しさに定評のある品種。大型で30cmほどになるのに、薄く繊細な葉はピンクから...

LEDライトなんて高くて買えない!という人へ……

「ちょっと待って! そこで終わらないで(汗)」
「LEDライトなんて高くてとても買えない! (泣)」
「カンテごときのお安いコには高すぎるアクセサリーだ!(嘆)」

……なんて、おっしゃりたいことはわかります。

なのでワタクシめが、手が届く価格のLEDライトをご用意させていただきました。ぜひチェックしてみてください!

最近の多肉植物業界でのトップクラスの革新といえば「強光を出せるLEDライトの登場」かもしれません。これがあれば今までNGだ...

カンテに挑戦したいという人へ……

我が家で管理しているコレクション株や海外からお取り寄せしたコを「おすそわけ販売」しているショップ「PUKUBOOK SUCCULENTS」にて、現在、大きなカンテ苗を販売しています。なかなか流通するサイズではなく茎も太くて丈夫ですし、自宅養生で根っこも十分張っています。完成株に1年かからず到達できる「チート」のような株なので、まだカンテ未経験の方にもオススメです。今回分が無くなったら次回は秋かなぁと思っています。お早めにどうぞ!

海外から個人でお取り寄せした多肉植物のカット苗・抜き苗です。僕の大きな手にも収まりきらない大株です。

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