かつて10万、20万円で取引されていた、あの“あこがれの高級品種”が——いまやまさかの500円?!
かつては高級専門店でしか見かけなかったあのコが、今ではホームセンターに並んでいる。「もうアガベは終わった」なんて声すら聞こえてきます。
でも、何度でも、言います。それは終わり”じゃなくて“始まりです。
価格相場がぶっ壊れたことで起こったのは、憧れでしかなかった多種多様な品種を、誰もが気軽に“好きなコ”として迎えられる時代になったということ。アガベを楽しむのに必要なのはお金じゃなくて、時間と熱意。それなら誰にでもありますよね。正直、小学生にだってチャンスがあるんです。
つまり、アガベ市場を揺るがしたこの“大爆発”は、すべてを焼き尽くす破壊の炎ではなく、新しい宇宙を生んだビッグバン。
2025年のいま、この“ビッグバン”がもたらしたアガベの新世界を、改めて追いかけていきます。
ヤフオクで価格チェックしながら、ね。
シンプルに言えば、供給が一気に増えたからです。
市場の価格は、需要と供給のバランスで決まります。買う人より作る人が増えれば、当然ながら値は下がる——ただそれだけのこと。
アガベの世界でその“供給革命”を起こしたのが、メリクロン(組織培養)。
ごく小さな苗の組織から、同じクオリティの株を何百、何千と生み出せる技術です。
もともと日本国内でも、限られた園芸家たちが地道にメリクロンに取り組んでいました。
難しい技術を少しずつ実用化してきたその努力があったからこそ、今のブームの土台を作ったとも言えます。
そこに、中国の生産者が本格参入しました。
桁違いのスケールと圧倒的な低価格でメリクロンを推進した結果、世界中にアガベがあふれ、価格は一気に崩壊。
今では、かつて10万円だった株が100円で流通することもあるほどです。
まさに、“技術革新と量産化”が引き起こした、静かなビッグバン。
これが、アガベ価格崩壊の本当の理由です。
まずはそんな「かつては憧れだったあのコ」が今はいくら位で入手できるのか? もちろん「その価値がある」と自信を持って言えるものなので持ってなかったらぜひ揃えていただければと思います。
なお参考価格を表示していますがある程度キャラクタの出てきた子株(7~10cm程度)の1個販売での価格を想定しています。10株セットといったホールセール(卸売)や、逆に立派に成長した青年株のお値段ではありません。
アガベを初めたい人もれなく全員、まず最初に手に取っていただきたいのがシーザー。「初代ネームド」と言えるような往年の名品ですが、ふつうにホームセンターでも見かけるようになりました。
こちらは「2代目ネームド」とも言える存在。
シーザーが王道の力強さを誇る光の王なら、ハデスはその名のとおり神秘的な闇の王。
鋭さの中に静けさを感じさせるキャラクタで、ファンの間では「通好みの美株」として人気があります。
2株でもプチプラの範囲内なので揃えて対比を楽しんでみて。
僕が買ったときは◯万円の高級種だったスナグルトゥースもたたき売りされる時代に。さすがに7〜10cmクラスはまだ1,000〜2,000円をキープしていますが、50株セットなどの卸売りでは、1本あたりわずか50〜130円。しかもそのロットがいくつも市場を流れていて、いまの勢いだと需要が飽和するのも時間の問題です。ホームセンターで気軽にスナグルトゥースを見る「奇跡の時代」もそう遠くないかもしれません。
もうちょっと安くてしかも立派な株もあるんですが、フィリグリーらしいワシャワシャした細い爪じゃなくて太くて豪快な感じなんですよね。フィリグリーも成長すればこうなる雰囲気はありますが。やっぱり「らしさ」が出てないと価格も控えめになるんでしょうか。
あまり小さいものは見かけず、想定より一回り大きいサイズで1,200~1,600円くらいが主力価格帯。うちにある「旧来白鯨」ような来歴がはっきりした特別感のあるものは高く評価されています。
ネームドの常識を塗り替えて超高級種の金字塔になった「SAD」ですが、今は立派な株でも1,600円~2,400円程度とすっかりお手頃に。最初この要因は、メリクロンがで始めた頃のニセモノ騒動のせいで悪評が定着したのかと思ったんですが、違いますね。当時大量に出回った激安SADのほとんどがほんとにホンモノで、今はそれが立派になって欲しい人の手元には残らずおさまっているからじゃないかと思います。たくさん出品されているサイズって、ちょうど当時のメリクロンの今の姿なんですよね。
「南アフリカダイヤモンド A. titanota 'South Africa Diamond' 」に似たタイプ。登場時期と数の問題かこちらのほうがやや高値。(個人的にはSADのほうが……もごもご)
かつてコンマ2つで落札されたこともある清桜ですが、入手しやすくなりました。荒々しさとコンパクトさというキャラクタはちゃんと出ていてアガベ棚の中でも目を引く特徴的なキャラなんですが、この路線はさらにコンパクトでまんまるになる「魔丸 A. titanota 'Mamaru' 」に代替わりしたのかも……。
その魔丸。コンパクトにデフォルメされたかわいいキャラクタで人気を集めています。業界でも「次世代に残るネームド」と評価されているので、認知が広まればもう少し高値圏を維持するんじゃないかと思っています。
極端に短い葉っぱがかわいいずんぐりむっくりネームド。この特徴のあるネームドは他で意外と見かけないので1家に1本あっていいかと思います。是非コレクションに加えていただければと。
逆トゲが出てくるタランチュラ系……ってことでいいのでしょうか。青白く端正な印象。個人的には好きなんですが認知が高くない印象。
比較的登場が新しいネームドですが、十分にその価格は落ち着いています。大きくて白い鋸歯はわりと特徴的で、それがよくでているサイズでも4,000~6,000円。キャラクタがわかりやすいのでもっと認知されてもいいかなーと思うのですが、今はこういう端正なタイプよりゴリゴリタイプのほうがトレンドなのかもしれません。
ここまでは、キャラクタがはっきり出ていて、しかも安心して買える“プチプラなネームド”を紹介してきました。
一方で、これから紹介するのはキャラクタが出てきたらプチプラでは買えないネームド。
キャラクタの出現が遅いタイプだったり、そもそも流通量が少なかったり、単純に人気が高かったりと理由はいろいろです。ただし、キャラクタの出ていない子株なら意外と手の届く価格で見つかることも。「どう成長するのかを楽しみたい」とか、「当たりかハズレかのドキドキを味わいたい」という方には、まさにぴったりのラインナップです。
登場時からずっと高い評価を維持するセレブリティ。人気が高いのもありますが、キャラクタが出るのが遅い。しかもメリクロンで流通したものの中にはっきりと「ニセモノ」が紛れてる。僕も掴まされました(笑)。じゃあニセモノじゃないものはホンモノなのかというと、うちでずっと管理しているホンモノ候補は未だにその特徴が出ません。確かに、葉っぱ数枚のキャラが出切っていない子株だと1,000円前後で入手できますが、正直言うと、4~5,000円出してちゃんとキャラの保証された株を入手したほうが良いと思います。
悪魔くんと同様に、ゴリゴリ系で有名なネームド。メリクロンの対象にならなかったのか、現在の市場ではめったに見ることができません。まだ特徴のでてない子株で1,000~3,000円程度。ちょっとしたギャンブル体験には手頃かもしれません。
いわゆる「ぶつぶつ系」で、2025年後半においても人気を維持。ぶつぶつ系なんだからぶつぶつがしっかりでていないと評価しづらく、でていない子株であればプチプラで入手できます。ぶつぶつ系はどうしてもギャンブル性高めのジャンルなんでしょうね。
最後に、チタノタに限らず、2025年現在でかなり高評価され注目の集まっている新品種をご紹介します。
2025年初頭から流通し始めたチタノタの白中斑。斑入りもいろいろと流通するようになりましたが、この大きくて白い斑は他の追従を許さず、高い評価を得ています。ただ、流通している段階でメリクロンされているものっぽいので、もう1~2年すれば数も出揃って落ち着いてくるとは思います。
こちらも出たての斑入り品種。「氷山 A. victoriae-reginae 'Hyouzan' 」は観たことあるし持ってるよという方、よく見てください。斑が反転しています。より白の面積も大きく輝きを増した氷山です。
というわけで、「気軽に楽しめるアガベ特集」、いかがだったでしょうか。この「気軽に楽しめる」という言葉のいちばんの証明は、この記事に登場する株のほとんどが実際に手元にあるということ。ネームド初期の頃には、そんな財力がまったくありませんでした(笑)。
思い返すと、安い中国株が出回り始めたころ、世間では「怪しい」「大丈夫?」「やめとけ」といった声が飛び交っていました。
実際に事件もあったし、ニセモノも混ざっていたし、思っていた姿に育たなかったという話も少なくありませんでした。
それでも——あのときリスクを承知で手を伸ばした人たちのもとには、今、立派に育った正真正銘のネームドがある。もちろん失敗もあったでしょう。でも、負ったリスクよりも得たもののほうが大きかった。あの瞬間の“飛びつく勇気”こそが、いまの景色をつくったんだと思います。
アガベではもう答えが出ました。では次はどこに、この現象が現れるのでしょうか。
次の「ビッグバン」は目前に迫っているのかも。——その波に、あなたはどう向き合いますか。
ここまで何度も「プチプラばんざい!」と書いてきましたが、誤解しないでほしいのは——高いことが悪いわけではないということ。
どんな世界でも、価値が正しく評価されるからこそ、人が集まり、技術が磨かれ、文化が育ちます。高値で取引される品種や作品を生み出してきた先駆者の努力があったから、今の豊かな園芸シーンがある。ひたすら頭が下がる思いです。
たとえば、過去の記事でもこんなテーマを取り上げました。こういう記事ももっと書いていきたいですね。